act.22
意外だった。
ただ、この一言に尽きる。
美里香ちゃんは中学生らしからぬあまり子どもじみていない大人びた性格の女の子だと思っていた。
自分が先輩という立場だから、気を遣って話しかけてくることはもちろん分かっていた。
けれど、それにしてもあんな幼い一面を見ることなんて今まで一度もなかったものだから、本当に驚いてしまった。
だからこそ嬉しかったのかもしれない。
あんな風に無邪気な姿を見せてくれたことが。
ほんの少しでも、美里香ちゃんに近付けたような気がして。
普段、自分と会話をしているときは確かに楽しそうではあるけれど、どこか気を張っているような印象を受けていた。
制服のスカートに汚れがついていて、それを手で払いながら子どものような微笑みを浮かべている昨日の美里香ちゃんの姿が頭の片隅にちらつく。
「おはよ、黄瀬くん!」
「あ、おはよ!」
「黄瀬くん、一緒に学校まで行こうよ!」
「うん、いいよ」
登校中、黄瀬はどこからともなくわらわらと集まってくる女子たちの中心に立っていた。
一人で静かに学校に行きたいときもたまにあったけれど、賑やかな空気は決して嫌いではない。
女子を無碍に扱うこともなく、とびきりの笑顔を見せて、声をかけてくる女子たちの一人一人に挨拶を返していった。
あちらこちらからキャーキャーと黄色い声が飛び交う様子を、黄瀬はどこか冷静な目で見つめる。
中学生でモデルをしているから、他の人より顔立ちがいいから、そんな理由で自分に寄ってきている女子が多くいることも承知していた。
こればかりはどうしようもない。
けれど、だからこそ女子たちにこんな余裕をもった対応ができていることも事実だった。
すぐ隣にいた女子の一人が黄瀬の制服の袖を軽く引っ張り、声をかける。
「ねえねえ、このネックレス可愛くない?」
「うん、すごく似合ってる」
「ホント!?あのね、駅前に新しくできたお店で買ったの」
「黄瀬くんが載ってた雑誌に書いてあったんだけど、限定販売品なんだって!」
「そうなんだ!さすが、女の子は情報が早いなー」
それでも、こんな風に異性を意識して可愛く見せようとしたり、自分と話すことによって純粋に楽しんでもらえることに悪い気はしない。
モデルとしての職業病がだんだん染みついてきてるな、なんてことをふと思ってしまう。
でも、適度な距離を保ってさえいられたら、女子たちと話すのは本当に楽しいことだった。
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