act.21
赤司との会話を済ませて、美里香が体育準備室に戻ろうとしたとき。
第一体育館から出ていくところを見かけたのか、桃井が美里香に駆け寄っていき声をかけた。
「美里香ちゃん、私も手伝うよ」
「あ…これくらい一人でも大丈夫ですよ」
「でも、今日は何もできてないから…」
「桃井先輩、まだ部員の人たちのデータ、全部集められてないんじゃないですか?」
「う…うん、実は…」
「それなら、そっちの方を頑張ってください。これは本当にあたし一人でもすぐにできますから!」
人を安心させるような美里香の優しい笑顔に桃井は何も言えなくなってしまう。
実際、まだ自分のすることも終えられていなかったから、美里香の申し出はこの上なくありがたいものだった。
ほっとした表情を浮かべて桃井は小さく呟く。
「本当にありがと、美里香ちゃん…すごく助かるよ」
「気にしないでください」
せっかくの美里香の好意をないがしろにするわけにもいかず、桃井はふっと笑みを浮かべた。
桃井の反応を見て、美里香も同じように笑みを浮かべる。
そして、よろしくお願いします、と一言だけ返事をして美里香は桃井に背を向けて体育館から出ていった。
体育準備室に戻る途中、何人かのバスケ部員たちと出くわしたけれど、その全てに笑顔で応えていく。
マネージャーとはいえ、普段は部員たちとはあまり話すことができない。
しなければいけないこともあり、話したくても話せないのだ。
それは部員たちにしても同じことで、美里香と話したかったのか、美里香が笑顔で応えてくれたことに微かに歓喜の声を上げている。
その全てが美里香は手に取るように分かった。
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