act.17










どんなことがあっても時間は何事もなかったかのように進んでいく。


土日が明けて、また学校が始まった。
黒子は昨日の出来事を思い返しながら一人で通学路を歩いていく。
いつもなら持っている小説を読みつつのんびりと登校しているのに、今日に限っては小説を手にする気さえ起こらない。
なんとかして気分を紛らわせようと鞄の中に入っている小説に目を向けるけれど、どうしても受け付けなかった。

小さな溜息を吐く。
拭えない不快感を抱いたまま歩いていると、後ろから誰かに飛びつかれて大きく前につんのめった。
しかし黒子はあまり動じない。
自分にこんなことをしてくる人物は一人しか思い当たらなかった。



「…おはようございます、桃井さん」

「おはよう!テツくん!」

「おい、テツが潰れてるだろーが」

「いいの!」

「…青峰くんも、おはようございます」

「おう」



自分のすぐ後ろで交わされる会話を聞いて、黒子はゆっくりと顔だけ振り向けると青峰と桃井の姿が映った。

いつもと同じ二人の姿だ。
それなのにどうしてこんな違和感を覚えてしまうのか、今の黒子にはその理由が痛いほど分かった。
この違和感を消し去るためにも伝えたいことがあるけれど今の自分にはどのように伝えたらいいのか全く分からない。
昨日、赤司に伝えることができたのも自分にとってはもはや奇跡に等しいものだったのだ。


二人は本当にいい人だ。
ただ、今はこれまでの自分自身のように本当のことを知らないだけなのだ。
だから本人も気付かないうちに間宮さんのことを傷付けてしまっているんだ。
きっと本当のことを知って理解してくれたら、間宮さんに対する意識を改めてくれるかもしれない。


どうすれば…黒子はただそれだけを考えながら、腕にくっついている桃井を振り払うこともしないで歩き続けた。

しかし、見咲さんは間宮さんを階段から突き落としてしまえるほどの本気の何かを抱えている。
下手に手を出して刺激してしまうことは間宮さんを余計に危険に晒してしまうだけではないかと躊躇った。

いつも以上に口数の少ない黒子に気付いたのか、青峰が怪訝そうな表情で呟く。



「…テツ、悪いもんでも食ったか?」

「え?」

「最近なんか可笑しいぞ」

「…うん…先週くらいからずっと元気ないよね、テツくん…」

「…そうですか?」



黒子が問いかけるように桃井に向けて首を傾げると、力いっぱいに頷かれた。
あまりの力強さに思わず目を丸くしてしまう。

確かにあの日から考え事をしている時間が多くなったような気がしていた。
二人は自分のことをよく見てくれていると思ったけれど、今はその気配りを間宮さんに向けてほしい。
そう思ったとき、口は自然と動いていた。






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