そこにいたのは、黒子先輩だった。
次々と嫌な記憶が鮮明に蘇る。
頭がおかしくなってしまいそうだった。
黒子先輩の後ろに青峰先輩や桃井先輩がついてきているのではないかと思うと気が気でない。
もう黒子先輩を見ると条件反射的にあの二人の姿が出てきてしまう。
とてもじゃないけれど、顔を合わせられない。
堪らず黒子先輩に背中を向けて顔を伏せた。
向き合っているわけでもないのに表情が苦痛に歪んでいく。
思っていることは自然と口をついて出てきた。
「来ないで…!」
「…間宮さん…」
「近寄らないでください!もう…声も、聞きたくない…」
「…」
必死だった。
ベッドに顔を埋めて追い払おうとするけれど、それでも黒子先輩が病室から出ていく気配を感じない。
何のために来たのか分からなくてただただ怖かった。
静寂に包まれる病室に、静かな声が響く。
「…すみませんでした」
それは確かに黒子先輩の声だった。
ベッドに顔を押しつけたまま目を見開く。
ますます意味が分からなくて、ゆっくりとベッドから顔を上げて黒子先輩を睨みつけた。
「…す…すみません…って…どういう意味ですか…?先輩たちも…こうなって、ほしかったんでしょ…?」
「…そんなこと思ってません」
「それならどうして私の話を聞いてくれなかったんですか!?聞いてくれてたら…っ」
「そのことは…謝っても謝りきれません」
「…」
「僕、見たんです…間宮さんが階段から落ちた日…」
「…見た…?」
階段から落ちた日。
思い出しただけでもぞっとする。
運が悪かったら、あの日に死んでいたかもしれないのだ。
黒子先輩は思い詰めたような表情で床を見つめている。
やがて、何かを決意したのかゆっくりと顔を上げて口を開いた。
「間宮さんが、見咲さんに…突き落とされたところを…」
まっすぐに見据えた視線は決して冗談を言っていない、すぐに本気だと分かった。
黒子先輩は多分こんな冗談は言わない。
あの人気の少ない階段の近くに黒子先輩がいたなんて気付かなかった。
信じられない…小さい声で呟くと、黒子先輩が悲しそうな表情のまま一歩ずつ近付いてくる。
震えが止まらないけれど逃げ場なんてもうどこにもなかった。
はっと気付いて黒子先輩に声をかける。
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