「純奈…」
「…なんですか?」
「僕が、みんなのようになるのが怖いと前に言ったね」
「…」
「…絶対にならないよ。僕は純奈を信じる。だから…純奈も僕を信じてほしい」
「…」
「こんな言葉一つで今の純奈が救われるとは少しも思わないが…」
「…」
相槌も打たず返事もしない純奈が気になって赤司はそっと顔を純奈の方に向ける。
ベッドシーツを顔に押し当てて体を震わせて泣いていることに気付いた。
静かに近付いていき、震えている肩に手を置く。
「…お前はよく泣くね」
「…あ…かし、せん、ぱい…」
「泣かせたくて来たわけじゃないのに」
「…っ、ちがう…っ」
泣いている純奈を見て赤司は困ったように笑う。
「純奈…」
「わ…わたし、わからなくて…ずっと、やさしくしてくれてたのに…っ、赤司先輩だけは、ずっと…なのに…」
「…純奈…もういいよ」
「…赤司先輩…」
「…うん」
赤司は棚に置いてあったティッシュを何枚かとって純奈に手渡す。
もうこのやりとりにも慣れてしまったのか純奈は黙ったまま受け取って涙を拭った。
涙が出てこなくなってから大きく深呼吸をして呟く。
「…ごめんなさい」
「純奈は悪いことしてないから謝らない、だろう?」
「…はい」
すぐに赤司先輩がかけてくれた言葉を思い出した。
意識していたはずなのに知らず知らずのうちに油断してつい謝ってしまう。
赤司は純奈を見つめて呟いた。
「純奈…約束しようか」
「約束…?」
「うん」
「どんな…?」
「…何かあったとき、僕には教えてほしい。察することもできるが…それにも限界があるからな」
「…」
「…いいね?」
確かめるように顔を覗き込まれてしまい純奈は小さく頷く。
赤司はよかった、と呟いてまた窓際の方に歩いていった。
もうここまで来てしまったのだから赤司先輩の親切心を拒否する理由なんてどこにもない。
ありがたくてどうしようもなかった。
「その怪我も…きっとただの転落じゃないんだろう?」
「あ、赤司先輩」
「…?」
「私…話したい、です…でも…ちょっと、どう言えばいいのか、頭の中でまだまとまってなくて…」
「…要領を得ない説明なら紫原で慣れてるよ」
ふっと可笑しそうに目を細める赤司。
純奈はシーツを握ったまま顔を伏せる。
そうこうしているうちに辺りは暗くなっていて、時間に気付いた赤司先輩は帰り支度を始めた。
それを見ているとなんだか寂しくなってきてしまう。
学校にいるときも寂しさは感じていたけれど、それとはまた違った寂しさを感じた。
そのとき、あることを思い出す。
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