一人きりになって体を少し起こしてみようと上半身に力を入れると頭がズキズキと痛んだ。
腕を動かそうとしても関節が軋むように痛んで、足に至っては感覚がなくてとても動かせる気がしない。
どんなことになっているのか見ることも怖くてとりあえず頭に触れてみた。
包帯をしっかりと何重にも巻かれている。

思っていたより、すごいことになっていた。

今の自分に置かれた状況を考えると、何から何まで恐ろしくて堪らない。
あんな風に美里香に突き落とされるなんて…美里香が本当に突き落とすなんて思わなかった。
自分に向かって手を伸ばした瞬間の美里香の顔を思い出して、また指先が震える。



「純奈!」



聞き慣れた声が病室に響く。
はっと呼ばれた方に顔を向けると心配そうな表情のお母さんが入口に立っていた。
すぐに駆け寄ってきて本当に安心した様子で、目を覚ましてよかったと何度も繰り返し言われる。

それから、何がほしい?何が食べたい?なんていつもはあまり聞いてこないことをしきりに聞いてきた。
意識を取り戻した喜びなんて実感がなくて今は何もいらないよ、と答える。


でも、それから色々な話を聞いて愕然としてしまった。

まず、美里香に突き落とされた日から三日も経っていたようだ。
さらにありえないことにどうやら私は足を踏み外して階段の一番上から転落したということになっているらしい。
美里香との場面を見ていない人からすればそう考えることは当然のことだろうけれど、当事者の私は信じられなくて息を呑んだ。
本当に美里香は私を殺すつもりだったのだろうか。


…純奈、死んでよ…あたしのために…。


最後の台詞を思い出して美里香の殺意を感じた。
このままでは私は美里香に本当に殺されてしまうかもしれない。



「骨折してるから、これから最低一週間は入院しないといけないらしいよ」

「…そっか」

「荷物はここに置いておくから。何か必要なものがあったら携帯で連絡ちょうだいね」

「…うん」

「…大丈夫?」

「…」



大丈夫なはずがない。
こんなことになって大丈夫な人間はどうかしてる。


お母さんは何も返事をしない私を心配そうな顔で見ていた。
美里香は何度か私の家に遊びに来たことがあったから、お母さんは美里香のことを知っている。
その美里香に私が突き落とされたと知ったら一体どんな顔をするだろうか。

こんな目が覚めたばかりに信じられないことを言い出して否定なんかされたらそれこそ精神が崩壊してしまいそうだ。
おまけにお母さんもいられる時間はずっと傍にいてくれたのだろう。
疲れているのがなんとなく分かる。
そのことを思うと今すぐに全てを打ち明けることはできなかった。

大丈夫だから…。
もどかしさのあまり、小さい声で呟く。

お母さんは何か察したのかそれ以上は何も言わなかった。






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