学校に着いても気分的には何も変わりなかった。

靴の中に画鋲が入っていたり教科書に落書きをされていたり机の上に花が置いてあるなんて幼稚な嫌がらせはこの帝光ではない。
それだけが唯一ほっとしたことだった。
でも、教室にいると居場所がないという事実を痛いほど感じてしまう。


それは昼休みになっても同じだった。

こんな毎日を送るようになってからは昼食なんてまともに食べられた記憶がない。
食堂に行くなんてまず無理な話で、購買部に行けば何かしら買えるだろうけれどそんな気さえ起こらなかった。
昼食代としてもらっていたお金も使わずに溜まっていく一方で、ダイエットなんてしているつもりもないのに体重は減っていく。
でも、今日こそは何か食べないといけない。
義務感のようなものに襲われて、ふらふらとおぼつかない足取りで購買部に向かっていった。



「…!」



あと少しで購買部に着くというところで見たくもない光景を目にしてしまった。

キセキの先輩たちは揃いも揃って背が高い。
だからこそどんなところにいても見付けやすいのだ。
そのことに今ほど感謝したときはないかもしれない。

緑間先輩と紫原先輩がいて、なぜかその二人の隣には美里香がいた。
三人で何やら話をしている。
さすがに今の状況であの三人と出くわすわけにはいかない。

心臓の音が周りにいる人たちに聞こえてしまうのではないかと思ってしまうほど大きく鼓動を打っている。
今にも眩暈を起こしてしまいそうで、急いで辺りを見回して隠れられそうな柱の陰に飛び込んだ。


お、お願いだから気付かないで…。


どうして自分がこんな風にこそこそしなければいけないのか。
でも、今はとにかく三人に気付かれないことだけを必死に祈る。
私の方が先に気付いて本当によかった。

背中をしっかりと柱に密着させたまま息を殺して、一体どれくらいの時間が過ぎただろうか。

そろそろ大丈夫かもしれない。
そう思いながら柱の陰から行き交う生徒たちの中、三人がいた方向を窺う。
もう誰もいない。
よかった…安心のあまり深い息を吐いた瞬間、後ろに気配を感じた。



「あの」

「きゃあああ!!」

「!?」



後ろにいたのは黒子先輩だった。
いきなり声をかけられて本当にびっくりしてしまう。
突然大きな声を出した私に動揺しているようだ。

でも、黒子先輩がいるということはすぐ近くに青峰先輩や桃井先輩がいるかもしれない。
パニックを起こしてしまい、黒子先輩に返事もしないまま一目散にその場から走り去る。
昼食なんてもうどうでもよかった。

今日はよく黒子先輩に会ってしまう。

以前までは少しでも先輩たちの顔が見られたら一日頑張れるような気がしたのに今はなんでこんなことになってしまったのか。





こんな風になってしまったのも美里香が変なことを言い出したからだ。
黒子先輩なんて、バスケ部の中でも仲良く話すことができた数少ない先輩の一人だったのに。

走っているとき、美里香への怒りは感じなかった。

ただ、こんな風になってしまったことが悲しくてどうしようもなかった。





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