ずっと下に向けていた顔を上げると前方に美里香の後ろ姿が見える。
周りに誰もいないからどうやら一人で登校しているようだ。

嫌でも昨日のことを思い出してしまう。
声をかけていいはずがない。
そんなことは考えるまでもないことだったのに、どうして足が美里香の方に向かっているのだろう。

昨日は後片付けもしないまま帰ってごめんね。
そのようなことだけでも伝えたくて今の自分に出せる精一杯の明るさを演じながら美里香に声をかけた。



「おはよう、美里香…」

「…は?」

「え…え?」

「前に友達ヅラしないでって…言ったよね…?」

「…」

「…言いたいことは山ほどあるけど…朝から声かけてこないでよ、気持ち悪い」

「…」



聞いたことのないような低く重い声で凄まれてしまい、言葉を失う。
それから何も言い出すことができない。
ただただ目の前にいる美里香を呆然と見つめる。


私の知ってる美里香は、絶対にこんなこと言ったりしない…どんなに機嫌が悪くてもこんな言い方はしない…。

…もう…本当に私の知ってる美里香じゃ…ないんだ。


美里香は溜息を吐いて不機嫌をあらわにする。
そして、まるで汚いものを見るような目付きでこちらを見て先に行ってしまった。
その場にいつまでも立ち止まっているわけにもいかなくて自分も必死にその後ろを歩いていく。

怖くて怖くて仕方ない。

仲間のいない日々がこんなに辛くて怖くて寂しいものだったなんて、知らなかった。










「…間宮さん」

「…え…?」



歩いていると後ろから誰かに声をかけられた。
また誰かに妙な因縁をつけられるのではないかと不安をどうにもできないままそろそろと振り返る。

声をかけてきたのは黒子先輩だった。
黒子先輩から声をかけてくることなんて今まで全くなかったから意味が分からなくて体が固まる。
無意識に危うい顔をしていたのだろう、目が合った瞬間に黒子先輩が言葉に詰まったのがすぐに分かった。



「突然すみません…さっきから後ろにいたんですが気付いてないようだったので…」

「…おはよう、ございます」

「おはようございます」

「…」

「…あの…見咲さんと、何か…」

「…す、すみません…先に行きます…」



黒子先輩の言葉を遮って逃げるように歩き出した。
今こんなことがあったばかりのときに、また美里香のことで何かを言われるのは辛い。
部活の時間でもないのにバスケ部の先輩に酷いことを言われるのだけはどうしても嫌だった。


そうだ…黒子先輩は、私が美里香に酷いことをしてると思ってるんだった…。
…話したところで辛くなるに決まってる。

話せることなんて…もう、何もない…。
















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