純奈…赤司先輩に何を言ったの?
それで、どうして赤司先輩は純奈の話をまともに聞いてるの?
いくらなんでも涙なんかで同情を誘えるほど赤司先輩はバカじゃないはず。
「…泣いてたなんて…あたしに酷いことしておいて、なんで純奈の方が泣くのか…よく分からないです…」
とどめと言わんばかりにじわりと目に涙を浮かべて赤司を見上げる美里香。
全ては計算の内だった。
脇にバスケットボールを抱えながら美里香の話を聞いていた赤司は何も返事をしないでボールを軽くつきながらゴールの方まで歩いていく。
そして、ゴールに向かってボールを投げた。
「つまり…美里香は純奈に何かされたんだな?」
「…はい」
にや、と美里香は不敵な笑みを浮かべる。
赤司には見えないように表情を歪ませた。
放ったボールがリングに入るまで赤司は黙り続けていた。
「…そうなのか、覚えておくよ」
「じゃあ…」
「でも、今日のことがあるから美里香の意見だけを優先して考えることはできない。もう知ってるだろうが、純奈は退部の件もあるからな」
「…」
一人で校門を出ていくとき、美里香の顔からは一切の表情が消えていた。
その背中からはまるで黒い炎が燃えさかっているようだった。
赤司の真意は全く分からなかった。
けれど、これ以上のことをすると今度は自分が疑われかねない。
それだけはどうしても避けたかったから素直に頷いてその場は治まったけれど、腹の内では何一つ理解できていなかった。
ただ純奈に対する怒りが今まで以上に大きくなっただけだ。
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