「…え!?帰った!?」
「ああ、だから今日の片付けは二人で頼む」
「…どうしたんですか?純奈…」
美里香が探るように赤司に尋ねる。
赤司はちらりと美里香に視線を向けて体調が悪そうだったから帰らせただけだよ、と軽く返事をした。
用件だけ手短に伝えて赤司はようやくコートの方に戻っていく。
それを見送った後、桃井が小さな声で呟いた。
「そういえば、さっきミドリンが言ってたんだけど…今日、純奈ちゃんが赤司くんに退部届けを出しにいったみたい」
「…え!?」
「でも、赤司くんは受理しなかったんだって」
「…な、なんで…?」
「…ごめんね、赤司くんからその理由までは聞いてないんだけど…もしかしたら、さっきも純奈ちゃんと話してたのかな…?」
「え?」
桃井先輩は嘘を吐いているわけではなさそうで、本当に何も分からないようだった。
どうやらあたしがスコアボードを出してコートの整備をしている間に赤司先輩がどこかへ行ってしまったらしい。
それから給水器を運んできたりタオルを配ったりとありえないことを始めたことが桃井先輩は気になっていたみたいだ。
もしかして…本当に、純奈と何か話してたの…?
今の純奈の話すことなんて誰も信じるはずがないのに。
…でも、それならどうして赤司先輩は退部届けを受け取らなかったの?純奈を退部させなかったの…?
ど う し て ?
今すぐにでも辞めてほしいのに。
何よりあたしは純奈にいじめられてることになってるはずなのよ?
それなのに、どうして…あの人…本当に意味分かんない…!
こればかりは黙って見過ごすことはできなかった。
あの赤司先輩にあんな雑務をさせたということは、それなりのことを伝えたのだろう。
話を知ることはできなくても、せめて何かあったのかどうかが知りたい。
あれこれ考えてもどうしようもない状況で、仕方ないから赤司先輩に直接聞いてみることにした。
いつになれば聞き出すチャンスがやってくるか分からなかったけれど、それからの練習中は赤司先輩の姿をとにかくじっと目で追っていた。
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