「…落ち着いたか?」

「…はい…」



純奈は泣き疲れたのか、放心していた。
日々の出来事に肉体的にも精神的にも憔悴している純奈を見て、赤司は何も言わずに持っていたタオルを純奈の手に押しつける。
昼休みにもハンカチを借りたことを思い出した純奈は受け取るのを少し躊躇ったけれど赤司に半ば強引に手渡された。
また謝ったら怒られてしまいそうで純奈は無言のまま目をタオルで押さえて声を振り絞る。



「あの…タオル、持っていかないと、いけないから…持っていきます…あと…赤司先輩も、こんなところにいないでそろそろ練習しないと…」

「…純奈。今のそんな顔で出ていくつもりなのか?」

「……」

「…どうなるか分かるだろう」

「…でも、しないと桃井先輩と美里香が…」

「僕が行く。桃井と美里香には二軍と三軍のところにそれぞれ配ってもらうよ」

「そ、そんなことしたら…」

「…?」

「…なんでも、ないです…」



美里香に何か妙なことを勘付かれたらいけないような気がする。

言葉は喉元まで出かかっていたけれど、抑えた。
でも本当に美里香に疑われたら何かが終わるような気がする。
それでも赤司先輩に美里香のことを伝えることはできなかった。

怖いから?
話しにくいから?
なんて説明すればいいか分からないから?

頭の中にぐるぐると色んな考えが浮かんでくるけれど、答えが出てこない。

いつまでも言葉に詰まっている純奈の顔を赤司は探るように見つめていた。
これ以上はもう無理かもしれない。そう思って純奈は本当になんでもありません、と首を左右に振る。
赤司はどことなく腑に落ちないような表情を浮かべたけれど、問い詰めることもしなかった。



「…疲れただろう。今日はもう上がっていいぞ」

「…でも、洗濯もまだ…」

「純奈が一人でしていたら今日中には終わらないかもしれないな」

「…」

「いいから今日は帰って休め。さすがに夜通しで洗濯をされたら僕も困る」



ふっと赤司先輩が口元に笑みを浮かべる。
初めて見たかもしれない、赤司先輩の柔らかい微笑み。
なんだか見とれてしまった。

でも、赤司先輩の言っていることは事実で今日は本当に疲れきっていた。
毎日あんな風に泣いて学校に来ては神経を張り詰めているから、家に帰ったときの疲労感は今まで感じたことがないほどだ。

…みんなも私がいない方が、いいよね。
その方が気を遣わずに過ごせるだろうし。
そんなことを思っていると、純奈の考えを見透かすように赤司は言葉を続けた。



「今日だけだからな。明日は必ず出てくるんだぞ。純奈の仕事はたくさんあるんだからな」










校門を出たところで純奈は何度も何度も足を止めた。
赤司先輩の言葉はありがたくて嬉しいのに…なぜか嫌な予感がした。
この予感がただの思い過ごしであることを祈りながら純奈は逃げるように学校から離れていった。











×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -