「…赤司先輩…」
タオルの用意が済んでから純奈が体育準備室に戻ると、赤司は椅子に座って何かのファイルに記録をしていた。
純奈が来たことに気付いたのか赤司は一瞬だけ目を向けてそれからすぐにまたファイルに視線を落とす。
よくよく部屋を見回すと給水器はもう一つも残っていない。
純奈はぐっと息を呑んだ。
やっぱり、やっぱり赤司先輩は…。
何を言えばいいのか分からなくて、純奈は赤司に小さく頭を下げた。
「あ、ありがとうございました…全部…持っていってくれて…あの、赤司先輩…」
「謝罪の言葉なら聞きたくないな」
「…え?」
「…純奈は、僕に謝らないといけないようなことは何もしてないよ」
「…」
「…だからそんな顔をしないでくれ」
赤司先輩が立ち上がり、ファイルを椅子の上に置いてこちらに近付いてくる。
正面まで来たところで、その目があまりにも真剣なもので視線を逸らすことができない。
自分より背の高い赤司先輩を見上げながら硬直していた。
もう何がなんだか分からない。
赤司先輩は何もしてないのに。
私の方こそ何もしていない赤司先輩に勝手に怯えて、気を遣わせて、なんだかんだ思いながら疑って…酷いことをしているのに。
「…なんで、赤司先輩が…そんなこと言うの…?」
「純奈…」
「…ッ…怖い…赤司先輩…いつか、みんなみたいに…なっちゃうんじゃないかって、怖いよ…」
「純奈、大丈夫だから…」
泣きたくなんかないのに涙が止まらない。
本当は、こんな状況もうどうにもならないと心のどこかで思ってた。
諦めたかった。
全部、全部。
赤司先輩のことも、黒子先輩のことも、黄瀬先輩のことも、緑間先輩のことも、青峰先輩のことも、紫原先輩のことも、桃井先輩のことも、美里香のことも。
バスケ部で過ごした時間を。
それでも、あの楽しかった思い出が諦めることを阻んでいる。
あんな優しいみんなの姿を最初から知らなければここまで苦しまなかった。
こんな目に遭っていても、あのときのみんなの優しい顔を忘れられないでいるなんて。
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