タイミングというものは本当にすごいもので、純奈の噂が流れ出した頃に赤司先輩と二人で会話をする機会があった。
主に部活の連絡で、純奈にも話しておきたいと赤司先輩は言っていたのだけれど運のいいことにそのときは純奈がその場にいなかったのだ。
赤司先輩とはもともとあまり話をする機会がなかったから今はこれ以上ないほどのチャンスの瞬間かもしれない。
そう思って今まで気になっていたことを聞いてみた。



「あの、どうでもいい話なんですけど…赤司先輩って彼女とかいないんですか?」

「…なんだ突然」

「赤司先輩、二年生の間でもすごく人気あるから。本当に少し気になっただけなんです」

「桃井といい美里香といい、女子は本当に浮いた話が好きだな」



呆れたように呟く赤司先輩の顔を見つめる。

正直、赤司先輩は苦手だ。
どこがどうというわけではないけれど、なんとなく安心できないからかもしれない。
けれど言葉は思いとは裏腹に自然と口をついて出てきた。



「…純奈、赤司先輩のことが気になってるって言ってたんですよ」

「え?」



初めて見た、赤司先輩の驚いた顔。
あれは演技ではない、間違いなく本当に驚いていた。
いつも涼しい顔をしていて落ち着いた雰囲気の赤司先輩をまさかここまで驚かせてしまうなんて。
本当に可笑しくて堪らなくて純奈にも見せてあげたいくらいだった。

でも、赤司先輩のことだ。すんなりとは真に受けないだろう。
話の信憑性を少しでも高めるために表情を作ってわざとらしく口元に手を当てて話を続けた。



「あ…ごめんなさい、つい…ええと、そんなのだからあたしも少し気になって…」

「…彼女はいないよ。今は自分のことだけで手一杯だ」

「そうなんですか」

「まあ…気持ちはありがたいね」



…ありがたい…。


煮え切らない答えで期待していたような返事ではなかったけれど、なんとなく理解はできた。
赤司先輩は純奈のことなんて別に好きではない。
もっと困ったり迷惑そうにするだろうと思っていただけに意外な反応だった。
というより、純奈のことなんて好きだと思う以前の問題で、最初からなんとも思っていないのだろう。

赤司先輩が純奈のことを気にするなんて気にするまでもなかったかもしれない。
バカらしくて赤司先輩にくだらないことを聞いてごめんなさいとすぐに謝った。


自分がとんでもないことをしていることは分かっていた。

純奈はあたしのことを信用して打ち明けてくれたのに。
この汚い感情は何?いつまで経っても治まらない。


不思議と罪悪感はなかった。

純奈なんてみんなに嫌われてしまえばいい。
もっと、もっと嫌われて苦しめばいいんだ。

あたしの邪魔になるものなんて。





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