キセキの先輩たちと初めて一緒に帰った日から、数日が経った日の帰り道のこと。

その日は純奈と二人で部活の雑務を済ませていたはずなのに、洗濯物が多くて片付けるのに時間がかかってしまい帰る頃には辺りは暗くなっていた。
いつものように二人きりで学校から駅までの道を歩いていく。

先日の女子たちに言われたこと、キセキの先輩たちの話を盗み聞きしたときの黒い感情、純奈が赤司先輩のことを気にしていること。
全て決して忘れてはいなかった。
心のどこかで引っかかってはいたけれど純奈とはこれまでと何も変わることなく接している。
一体何なんだろう、ふとしたときにそんなことを思いながら純奈の話に相槌を打っていた。

やがて学校の最寄りの駅前に着いて、純奈の乗る電車の改札口が見えてくる。
あたしの乗る電車の改札口はここからもう少し先のところにあるからいつもこの改札前で純奈とは別れていた。



「美里香、また明日ね」

「うん、ばいばい」



手を振って別れて、いつものように自分の乗る電車の改札口の方に歩いていく。
けれど、その途中で今使っているリップクリームがなくなってきていることを思い出して、すぐさま財布の中を覗いた。
今すぐに必要というわけではないのになぜか気になって仕方ない。
リップクリームを買うだけのお金を持っていることを確認すると、来た道を引き返す。

愛用のリップクリームを安く売っている店が駅前から少し離れた繁華街の並びにあるから、その店に行くことにした。
人が多くて騒がしい繁華街の通りを一人で歩くのはあまり好きではない。
別れる前に思い出して純奈についてきてもらえばよかった、そんなことを思いながら足を踏み出した瞬間、後ろから大きな声が聞こえてきた。



「美里香ー!」



聞き覚えのある声に名前を呼ばれて反射的に振り返ると、あの目立つ女子たちのグループがこちらを見ていた。
見慣れた人物に自然と口元に笑みが浮かんだけれど、その姿を直視して思わず息を呑む。

学校が終わったからかスカートの丈は学校にいたとき以上に短くなっていて、いつの間にか化粧もとても濃くなっていた。
変わりすぎた外見に動揺してしまう。
それでも化粧映えというのはすごいもので、目が大きく見えるしふさふさしたまつ毛が可愛い、なんて不本意ながらに思ってしまった。
あたしはそんなものには無頓着だったから何も言えずにただただ外見を眺める。



「美里香、さっきまで間宮さんと一緒にいたでしょ?だから声かけようかどうしようかってみんなで話してたんだよね」

「気付いてくれないしさ、うちら絶対にストーカーみたいになってたよ」



知らず知らずのうちにあたしの周りにわらわらと集まってきては声をかけてきた。
その中に純奈の話題を振ってきた女子もいて、その女子は何か微妙な顔をしている。
そして少し考えてから一人でうんうんと頷いた。



「分かった!美里香、間宮さんは美里香に釣り合ってないんだわ!」

「あーあたしも後ろから見てて思った。なんか間宮さんって暗そうだしさ、美里香は可愛いし全然違うんだけど…なんか、ね」

「にしてもよく一緒にいられるよね…美里香、ちょっと優しすぎるんじゃない?」

「美里香の魅力が半減されちゃうっていうかー」



まさか。

心のどこかで何かが壊れる音が聞こえた。






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