「なんだこの部屋は…」










その声に全員がはっとした。
戸のところには赤司先輩が立っていて、不愉快そうな面持ちで腕を組んでいる。

辺りにばらまかれた掃除用具。
床に広がっているスポーツドリンク。
横転している給水器。
何もかもが異常な状況だった。

女子たちは、やばい!とお互いにアイコンタクトをして備品を抱えて、赤司の前をすり抜けて体育準備室から飛び出した。
結局、その場には純奈と赤司だけが取り残される。
それでも純奈は呆然としていて赤司はスポーツドリンクの水溜りを踏まないようにしながら純奈に近付いていった。



「…ッ…す…すぐ、掃除して…つ、作り直します…」



無言で腕を組んでいる赤司先輩が怖くて思った以上に声が震えている。
とてもまともな会話ができそうになかった。
未だに腕がずきずきと痛む。
その痛みを振り払うようにモップに手をかけた瞬間、赤司先輩に肩を叩かれた。
唐突な行動に思わず仰け反ってしまいそうになる。



「純奈…腕」

「…腕…?」



赤司先輩に声に反応して、そろそろと腕に目を向けるといつの間にか傷ができていてそこから血が流れていた。
打っただけだと思っていたけれど切れていたようだ。
思いがけないことにどうしようと慌てていると、赤司先輩がすぐ近くの棚から救急箱を取り出している姿が目に映る。
その中から少し大きめの絆創膏を取り出して、無言のまま差し出された。



「え…」

「使え」

「…」

「…いらないのか?」

「…」



いつまで経っても返事をしないで動かない純奈を赤司はじっと見つめる。
やがて、純奈の腕を引いた。
何をされるのかと震えながら純奈が赤司の顔を見ていると、赤司は慣れた手付きで絆創膏の紙の部分を剥がしてそれを傷口に当てる。
貼り終えると赤司の口がゆっくりと動いた。



「…あまり心配させるな」



その声を聞いた瞬間、堰き止めていた何かが溢れ出すように涙が込み上げてきた。





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