もうすぐ部活が始まる時間だった。

昼休みの赤司との会話を思い出しながら、純奈は部活に出たくないと思う気持ちを押し殺して女子更衣室に入っていった。
更衣室に足を踏み込んだ瞬間、純奈の体が凍りつく。
まだ桃井は来ていなくて、ちょうど美里香が着替え終わったところだった。
気まずくて何も言い出せないまま、少し離れた場所の空いているロッカーを開けて持ってきたジャージを鞄から取り出す。
そのとき、後ろから美里香の声が聞こえてきた。



「まだ辞めないの?」

「え…」

「あれだけバスケ部の先輩たちに迷惑かけておいて辞めないって本当に最低」

「…美里香…私、何もしてないよね…なんでいきなりこんなことしたの…?」

「こんなことって何?あたし、何もしてないから」

「私も何したのか分からないよ…美里香、何か知ってるんでしょ?」



美里香の方から話しかけてきたのは本当に久しぶりのことだった。
昨日の美里香の悪魔のような微笑みが頭の中にフラッシュバックしてきて、純奈は思わず問い詰める。
これまでの美里香の態度から、美里香が今回の件に無関係とはとても考えられなかった。
考えられないけれど、考えてしまう。
でも美里香がそんなことをすると考えたくないことは本心だった。

着替え終わってから荷物をまとめて美里香は壁にかかっている鏡の前まで歩いていく。
そして、髪の毛を束ねながらだるそうに口を開いた。



「知らない。あんたのことで最近知ったのは援助交際してるってことだけ。正直びっくりしちゃった」

「…私はそんなこと、してない…」

「どうだか」



バカにしたような笑みを口元に浮かべて、美里香は持っていたリップクリームを塗り始める。
あれだけ仲良くしていたはずなのに今は仲良くしていたことさえも夢だったのではないかと思うほどの言い方だった。
仲の良かったときの美里香を覚えている分、豹変してしまった美里香の姿が怖くて仕方なくて指先が震える。






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