「…今日のラッキーアイテムは折り紙なのか」

「なあああああッ!!あ、赤司!?」

「なんだ、突然大きい声を出して…」

「いきなり後ろから声をかけるな!ていうかなんでここにいるのだよ!!せっかく集中していたのに…」

「…」

「…今日のラッキーアイテムは折り紙ではなくて折り鶴なのだよ」



緑間は神経が磨り減ったのか、がっくりと肩を落として呟いた。
赤司が突然声をかけたからか手に力が入ってしまい、途中まで折られていた鶴らしきものは破れている。
ここで声をかけてきた相手が黄瀬や青峰ならば容赦なく怒るだろうけれど、赤司だからか緑間は何も言わずに唇を噛み締めた。
力なく溜息を吐いて、破れた折り紙を投げやりに机に叩きつける。
それから赤司が口を開いた。



「ラッキーアイテムを用意せずに学校に来るなんて珍しいな」

「…鶴の折り方なんて知らなかったのだよ。だから昼休みにわざわざ図書室で折り紙の本を借りたのだが…」



おは朝の占いを見て、折り紙だけは家にあったものを持参してきたようだ。

膝の上に広げていた鶴の折り方のページに目を落として緑間は忌々しそうにまた溜息を吐いた。
緑間のことだからラッキーアイテムである折り鶴が完成するまで落ち着いて話ができそうにない。
赤司はやれやれと小さく息を吐いて、緑間の机の上に置いてあった折り紙を横から一枚だけつまみ上げた。
それを手の中で折りながら話を切り出す。



「…わざわざ会いに来た理由だが」

「ああ…なんだ?」

「今日、純奈が退部届けを持ってきた」

「……」



緑間は沈黙したまま昨日の出来事を思い出して、無言で赤司の顔を見つめた。
眼鏡を指先で押し上げて赤司の続きの言葉を待つ。
赤司は相変わらず涼しい顔で指先を動かしながら、なんてことない風に呟いた。



「退部届けは受理しないことにしたよ」



緑間は目を見開いた。
ありえないと言わんばかりの表情で赤司を見る。
そんな緑間の顔を赤司は一瞬だけ横目で見たけれど、何を言うわけでもなく手を動かしていた。



「…意味が分からないのだよ。赤司、どういうつもりだ」

「意味が分からないのは僕の方だよ。緑間の方こそどういうつもりだったんだ」

「俺は赤司の手を煩わせないように、あえて赤司には何も言わずに間宮に伝えただけなのだよ」

「…独断でこういうことをするな。最終的に決断するのは部長の僕だ」

「…赤司に無断でしたことはすまないと思っている」

「それなら二度としないでくれ」



赤司にじろりと睨みつけられて緑間は何も言えなくなる。
これ以上、赤司に反論する気にはとてもなれなかった。
何も言わずに緑間は眼鏡を押さえる。






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