「キセキの先輩たちと一緒に帰れるなんて、すごいね」

「…うん。なかなか一緒に帰れないもんね、先輩たちとは」

「美里香、ずっと黄瀬先輩と話したいって言ってたから今日は少しは話せるかもしれないよ」

「え!?なんスか!?純奈ちゃん、俺と話してみたかったんスか!?」

「あ、ええと…今のは私じゃなくて美里香なんです…」



女子の会話の探知が早いのか、黄瀬の名前を出した瞬間に黄瀬本人がくるりと振り返る。
ちょうど純奈と美里香の後ろを歩いていた赤司は小さな溜息を吐き、その隣にいた紫原は持っていたポテチの袋が空になったのか寂しそうに中を覗いていた。
純奈が黄瀬の名前を出したおかげで黄瀬がこちらを向いてくれて、美里香は恥ずかしそうに下を向く。
今までずっと影から見て憧れていた人がこんなに近くにいることが信じられなかった。



「そういえば、桃っち以外のマネージャーの子とはあんまり話したことなかったかもしれないっスね…美里香ちゃん、今日はたくさん話しましょう!」

「えっ!?あ…は、はい…」



黄瀬の爽やかな笑顔に、美里香は情けないくらい恥ずかしくなってしまい声が小さくなっていく。

これまで男子生徒に告白されたことは何回もあった。
けれど、どの相手も付き合うと考えるとどうしても踏み切ることができなくて断り続けていた。
今は彼氏なんていなくても楽しい毎日を送っていけると心のどこかで信じていたからかもしれない。
でも、黄瀬先輩やこんなにも輝いているキセキの先輩たちを目にしてしまうとその気持ちも少し揺らいでしまう。
この人たちに見ていてもらえれば、傍にいれば、今まで感じていた生きることに対する気だるさを忘れてしまえるのではないかと本気で思った。


よかったね、言葉に出されなくても純奈の顔を見ればそのようなことを思っているのはすぐに分かった。
そうだ、黄瀬先輩と話すことができたのは純奈が思い切って言い出してくれたおかげでもあるのだ。

先程までの自分の思考を恥じた。
こんなに優しい純奈に対して、なんて酷いことを思ってしまったのか。


このときは、まだ、純奈のことを本当に大切な友達だと思っていた。

このときは、まだ。





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