いつから純奈のことを疎ましく思い始めたのかよく覚えていない。
ただ、これがきっかけだったのではと思い当たることは確かにあった。
『…美里香ちゃんは普通に可愛いけど、純奈ちゃんもけっこう可愛いと思わないっスか』
部室の方から聞こえてきた黄瀬先輩の声に足を止める。
こんな盗み聞きのようなことをしてしまい罪悪感に苛まれるけれど、キセキの先輩たちの会話には少し興味があった。
このようなことになったのには理由がある。
いつも黒子先輩や青峰先輩と一緒に帰っている桃井先輩が、今日はみんなで一緒に帰ろう!と言い出したことが始まりだった。
キセキの先輩たちと一緒に帰ることなんてこれまで一度もなかったから、あたしと純奈は顔を見合わせてすぐに頷いてしまった。
もしかしたら桃井先輩がキセキの人たちともっと交流を持たせようとわざわざ機会を作ってくれたのかもしれない。
とにかく、心の底から桃井先輩に感謝したことを覚えている。
先に支度が終わって部室の方に向かっていたら今の状況に出くわしたわけだ。
あまり部室の戸には近付きすぎず、けれど声が聞こえるちょうどいい場所を探して、そこで中の会話に耳を澄ました。
『美里香は三年の中でもかなり有名だろーがよ。純奈は…胸はさつきほどじゃねーけど、悪くないよな』
『青峰っちの女の子の判断基準はいつもそこなんスか!俺は性格面も考えた上で話してるんスよ!!』
『うんうん〜純奈ちんはこないだ俺がなんか食べたいーって言ったらポテチくれたんだよ〜本当いい子だよね〜』
『…お前たちはまたろくでもないことを話して…よく話題が尽きないな』
『緑間っちもそんなこと言って〜。年下は嫌いだ!なんて言いながら、年下のマネージャーにはちょっと優しいじゃないっスか』
『うるさいのだよ!年下に教えを乞われたら教えないわけにはいかないだろうが、アホめ!』
横で呆れながら聞いている赤司先輩と黒子先輩の顔が頭の中に浮かぶ。
楽しそうな会話につられて笑ってしまうけれど、何か心の中で引っかかるものを感じた。
そのものの正体が分からないまま会話は続く。
『でも、嬉しいんスよ。俺の周りって派手な女の子ばっかりだから、純奈ちゃんみたいな子には敬遠されがちで…』
『さりげなくイヤミを言ってますね、黄瀬くん。どこからどう見ても間宮さんは黄瀬くんに大した興味は持ってなさそうですよ』
『そ、そんなつもりはないっスよ!ていうかなんかサラッと酷いこと言ってないスか!?』
『まーよくよく考えたらさつきも美里香も派手な方かもしれないし、純奈みたいなのは珍しいかもな』
『青峰っち、分かってる!なんていうか磨けば輝きそうな原石って感じっス!この俺が言うんだから間違いないっスよ!』
『黄瀬が人の目利きをするなんて、随分な身分になったものだな』
『あ、赤司っち…冗談っスよ…マジで目が怖いんスけど…!』
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