「…そんなことがあったんだね」

「は、はい」



話し終えると赤司先輩の様子がどことなく変わったような気がした。
怒っているような、不愉快そうな顔をしている。

何か余計なことを話したかと不安になってしまった。
けれど、赤司先輩はすぐに表情を元に戻して薄く微笑む。



「…ありがとう、よく教えてくれたね」

「あの…この話、先輩たちには…」

「分かってるさ。言わないよ」

「…あ、ありがとうございます」

「…ああ、もうすぐ昼休みも終わるから今回のこの話は保留にしよう。この退部届けは僕が預かっておく」



結局、退部届けは赤司先輩が制服のポケットに入れて預かられてしまった。

次の授業の予鈴が鳴って赤司先輩と一緒に空き教室から出る。
廊下を見回すけれどもう予鈴が鳴ったからか人はあまりいない。
少しだけほっとしてしまう。



「じゃあ、また部活で」



それだけ言うと赤司は返事も待たずに純奈に背中を向けて自分の教室の方に向かっていってしまった。
赤司がいなくなってから手にずっと握っていたハンカチに気付く。
ちゃんと洗って返さないと…そう思ってブレザーのポケットの中にしまった。

本当に分かってくれたのかな。

安心も束の間、信じきれていない自分がいることに気付く。
他の先輩たちのように信じてくれていないのではないかと不安になった。

それでもあんな風に優しくされたら、またバカみたいに信じてしまいそうになる
今日は部活には出ないつもりだったのに。
気は乗らなかったけれど赤司先輩の言うことを無視するわけにはいかない。
溜息を吐いて教室に戻っていった。





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