「…は、はい」

「へえ…」

「…」

「…」



赤司は他人事のように呟いてそれきり口を開かない。

分かった、とも
もう部活に来なくていい、とも
なんとも言わない赤司のことが純奈は分からなかった。

赤司先輩、何を考えてるんだろう。
ようやく厄介な奴がいなくなると思ってるのかな…。
なんでもいいから…何か言ってほしいな。

二人の間にはなんともいえない微妙な空気が流れていた。
やがて、赤司は退部届けからゆっくりと目を上げて、今度は純奈に目を向ける。



「…理由は?」

「え?」

「僕としても、退部を承認するためには納得のいく理由が必要だ」

「……」



いくら赤司先輩でも、学校中で広まっている私の噂を知らないはずがない。
分かっているくせに私の口から言わせたいのか。
あんなデタラメ、自分で口にすることさえ嫌で嫌で仕方ないというのに、なんてことを言い出すんだ。



「…赤司先輩も…あの…噂、知ってますよね」

「本当のことなのか?」

「違います!」



思わず叫んでしまった。
突然大きな声を出したからか目が危うくなっていたからか、赤司先輩は目を丸くしている。

もう嫌だった。
ありえない話を信じた人たちが向けてくる好奇の視線も、どれだけ話しても理解しようともしてくれないことも、もう全部。
何より、一番の信頼を寄せていたバスケ部の人たちの反応があれだ。
もうどうしようもない。

今まで堪えていた感情が爆発してしまう。

気付けば、涙が溢れて頬を伝った。
下を向いてしゃくりあげながら小刻みに震える肩を両手で抱きしめる。
視界が涙で滲んでいた。



「…本当じゃないなら、辞めるなんて言うのはおかしな話じゃないか」



頭の上から赤司先輩の声が降ってくる。
それから、頭を軽く叩かれてハンカチを差し出されていることに気付いた。
赤司先輩ってこんなに優しい人だったっけ。動揺しながらもハンカチを受け取って涙を拭うけれど止まらない。
いつの間にか赤司先輩は自分の横に立っていて背中をさすってくれている。



「…で、でもっ…だれ、も、わかってくれないし、なに、言っても…はなしも、聞いてくれないから…っ」

「……」

「あか、し、せんぱいにも…もう…ごか、い…されてるとおもって…」

「…してないよ」



ぼろぼろと涙が溢れる。
初めて人に現状を理解してもらえたことが本当に嬉しかった。

それから私が泣き止むまで赤司先輩は黙って背中をさすってくれていた。
















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