更衣室に戻る途中、美里香を一緒に連れていこうかと考えていた。
些細なものでも、先輩と何かしら接点ができることについては美里香もきっと喜んでくれるに違いない。
そんなことを考えながら更衣室の戸を開ける。
しかし、そこにいるはずの美里香の姿は見当たらなかった。
荷物はまだ残っているから、トイレにでも行ってしまっているのだろう。
途端に、今後の展開を楽しみにしていた自分が虚しくなり、小さく息を吐いた。

ロッカーに入っていた鞄からお菓子を取り出して、更衣室を出ていき、紫原先輩が待っている第一体育館へ向かっていく。


体育館の入口が見えてきたとき、戸の前に小さくなって座り込んでいる紫原先輩を見付けた。
向こうもすぐに気付いて、返事を代わりに笑みを浮かべる。



「来た来た〜。中だと赤ちんにばれちゃうから、ここで待ってたー」

「そうだったんですか…あの、これです」



お菓子を差し出すと、紫原先輩は受け取って、それを確かめるように眺めだした。
沈黙が流れて、まさか嫌いなものだったのではないかと渡した自分の方が不安になってきてしまう。



「…何これ…食べたことないんだけど」

「えっ、あ…嫌いでしたか」

「まっさか〜。けっこうお菓子は食べ尽くしたと思ってたんだけどな…まだ知らないのあったんだね〜」



うんうんと一人で納得するように頷きながら、最後の食糧と言わんばかりの表情で大切そうにお菓子の袋を持っている。
気に入ってもらえてよかった。
低いテンションだけれど、喜んでいる紫原先輩につられて微笑んでしまう。



「ほんとにありがと。またもらっちゃうかもー」

「…お菓子、好きなんですか?」

「え…お菓子が嫌いな人って…いんの?」

「い、いないと思います。だけど…ちょっと意外です」

「そっかな〜…あ、めちゃくちゃ美味しい」

「…よかったです」



会話の途中にも関わらず、紫原先輩はお菓子を食べ始めた。
お腹が減っていたのだろう、空腹が紛れて、落ち着きを取り戻したのが見て分かる。






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