「…赤ちん、まだ?」

「先に帰ってもいいんだぞ」

「ここまで待って帰っていいとか酷すぎるしー」

「それなら大人しくしてるんだ」



もうバスケ部の人たちは全員帰ってしまっただろうと思っていたら、残って練習をしている赤司先輩と紫原先輩の姿を見付けた。
正確に言えば、真面目に練習しているのは赤司先輩だけだ。
有名な先輩である二人だから、知らないはずがない。
前々から二人が一緒にいるところを見かけていたけれど、まさかこんなところで会うなんて、さすがに動揺してしまう。
黙々と練習を繰り返している赤司先輩とは対照的に、紫原先輩はどこか落ち着きがなかった。

二人に気を取られながらも、待っている美里香を思い出して中に入ろうと足を踏み出す。
その瞬間、紫原先輩が突然こちらに顔を向けてきた。
しかし、何を言い出すわけでもなく、こちらに視線を向けたまま微動だに動かない。
無言の圧力に、自分の足も止まってしまう。



「…あー…誰かと思ったら、マネージャーじゃん」



誰なのか認識するまでに少し時間がかかったようで、紫原先輩はのんびりした口調で呟くと、こちらに向かってきた。
退屈していたのかしきりにあくびを噛み殺している。
背が高い上に間近に来られたせいで、圧力がより一層強まった気がした。



「ボールなんか持って、何してんの?」

「あ…ええと、準備室にボールが残ってて、戻しにきたんです」

「あら、そうなの。…だったら、俺がもらっとこーかな」

「ありがとうございます…よろしくお願いします」

「…」



長居する理由もなかったため、そのままボールを預けて立ち去ろうとした。
そのとき、紫原先輩が何か言いたげな顔をしていることに気付く。
何か話したいことでもあるのだろうか。
私と赤司先輩を交互に見てから、紫原先輩は軽く身を屈めて、まるで内緒話をするかのように声を潜めた。






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