「喧嘩はしてないですよ」

「そうなんだー…」

「…あの、今日の純奈のこと…赤司先輩から何か聞きましたか?」

「純奈ちんの調子が悪いから今日は会えない、みたいなことは聞いたけど〜?」

「ま、まあ…純奈ちゃん、あんまり具合よさそうじゃなかったっスね」

「そうですね…」

「…二人とも…なんか隠し事してないー?」

「うう…隠すつもりはないんスけど…今はちょっと言いにくいんで、あとで教えるからそれで勘弁してほしいっス…」

「ええ〜?何それ…そんなにすごいことあったの?」

「…すごいことっていうか、なんていうか…」

「…ま、なんでもいいけどさ〜」



運のいいことに、紫原先輩には必要以上に勘繰られずに済んだ。


あたしは純奈と喧嘩なんか、していない。
最初からそんなことはなかった。
あたしと純奈との間にあったことといえば、あたしの中に溜まりに溜まっていた純奈に対する怒りが爆発しただけだ。

でも、正直なところ、もう気は晴れた。
それに、純奈の敵はあたしではないのだ。
だからといって、純奈を助けるような真似をするつもりはない。
何より、二度とあんな思いはしたくなかった。

純奈を助けたりなんかしたら…。





そこまで考えたところで我に返った。
考え事をしている間に、長い時間が経っていたようだ。


純奈に対して冷たい態度をとるようになった原因を思い出すと、やはり怒りが込み上がってくる。
けれど、込み上がる感情が怒りだけではないことに気付いた。
恐怖のような、不安のような、自分でも理解できない不可解なものが入り混じっている。
得体の知れない感情の正体が分からないまま、静かにゆっくりと目を閉じた。





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