それから、三人で他愛のない話をして時間を過ごした。
赤司先輩と黒子先輩の話を聞いていると、忘れかけていた学校生活の感覚を思い出せそうな気がする。
純奈が相槌を打っていると、黒子がふと黙り込んで、制服のポケットから携帯電話を取り出した。
誰かから連絡でも来たのだろうかと純奈と赤司が黒子に一瞬だけ視線を移す。
黒子は手元で少し操作をしてから、携帯を純奈に向かって差し出した。
唐突に差し出されて、どうしたのかと思いながら携帯の画面に目を落とすと何かの入力モードになっていることに気付く。
「忘れてしまう前に、お願いしておきます」
「…これ、なんですか?」
「もう遅いかもしれないんですが…間宮さんの連絡先、知っておいた方がいいと思って…それに連絡先を入れてほしいんです」
「え…」
「知っていれば、今日のことも一足早く間宮さんに伝えられていたんじゃないかとずっと考えてました」
「…そうだな。確かに連絡先を知らないのは不便だ」
「あ、あの…」
「美里香を信じていないというわけではないが、何かあるときは僕たちから伝えた方が確実だろう」
「それは、そうかもしれないですけど…」
話についていけないまま、黒子に携帯を渡される純奈。
とにかく連絡先を入れてしまおうと思い、純奈は慣れない手付きで黒子の携帯に自分の番号とアドレスを打ち込んでいく。
間違いがないか簡単に目を通してから携帯を返すと、黒子は小さく頭を下げた。
するとすぐに赤司と目が合って、無言のまま携帯を差し出される。
「え?」
「なんだその顔は…僕には連絡先を教えられないのか?」
「ち、違います!ええと…し、失礼します…」
「ああ」
もたもたしていると赤司先輩の機嫌を損ねてしまいそうな気がして、すぐさま携帯を受け取った。
アドレスを打ち込んでいる指先が微かに震えている。
そもそも、赤司先輩と連絡先を交換することになるなんて考えてもいなかった。
これまでの話から、今後は黒子先輩を経由して連絡をしてくれると思っていただけに、動揺を隠しきれない。
私は何をしているんだろうか…ボタンを打ちながら、そんなことを考えてしまう始末だ。
少しばかり時間をかけて連絡先を打ち込んでから、純奈は赤司に携帯を手渡した。
見事なまでに気疲れしてしまい、小さい息を吐く。
赤司が携帯の画面を確認しながら呟いた。
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