「怒って…ますよね…」
「怒る?」
「何にですか?」
「何にって…」
なぜか不思議そうな顔をされた。
純奈は一瞬だけ目を丸くしたけれど、すぐに苦しそうに目を伏せる。
とぼけているのだろうか。
いくらなんでもこの状況でからかったりとぼけたり、そんな反応をするなんて酷すぎる。
けれど、この二人に限ってそんな心無いことをするはずがない。
確信はないけれど、そう信じたくて、覚悟を決めてから自ら話を切り出した。
「私…退部、ですよね…」
「…さっきから話が唐突だな。どうしてそう思うんだ?」
「…美里香に…先輩たちに、その…」
「黒子から話は聞いたが…もしかして、嫌いと言ったことを気にしてるのか?」
「…気にしてます」
「それが純奈の退部とどう関係するのか分からないな」
「え…だ、だって…あんなこと言ったら…!」
あんなことを言ってしまってから、またバスケ部に身を置くなんて考えただけで気分が悪くなってしまう。
決して嫌いなわけではない。
ただ、どんな顔をしてその場にいればいいのか分からないのだ。
それは私と過ごさなければいけないと思っている美里香や先輩たちも同じだろう。
双方に苦しいこと以外の何ものでもない。
しかし、赤司先輩は特に気にしていない様子だった。
当事者ではないとはいえ、今になってもそんな態度をとっていられる気持ちが理解できない。
私に対して、バスケ部の秩序を乱した根源だと本当に少しも思っていないのだろうか。
何も言い出せないまま赤司先輩を見つめていると、横から黒子先輩の声が聞こえてきた。
「間宮さんが本心からみんなのことを嫌いなんて言ってないこと…少なくとも、僕と赤司くんは分かってるつもりです」
「…それとも、本当に嫌いになったのか?」
「なってない…なってないです。だけど、もう…桃井先輩も、黄瀬先輩も…きっとみんな…」
「…まだ理由が何なのか分からないとはいえ、言われてしまうだけのことをしたのは事実です」
「いい意思表示になったと思うけどな」
赤司先輩はうっすらと笑みを浮かべていた。
笑っていられる余裕なんてどこにもないのに。
赤司先輩は、私がどれだけこれからの生活に不安を抱いているのか見当もつかないのだ。
もともとの性格から考えてみても、分かってもらえるはずがない。
まだ黒子先輩の方が理解を得られるような気がする。
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