赤司先輩の声だ。
気付いた途端に指先が震えだした。
先輩たちはもうとっくに帰ってしまったと思い込んでいただけに、赤司先輩がここにいるという状況を理解できない。
まさか先輩たちが戻ってきて、とうとう全員からの叱責を浴びてしまうことになるのか。
考えただけでどうにかなってしまいそうになる。


けれど、どれだけ嫌だと思っても、赤司先輩を無視することはできなかった。
赤司先輩は、私のことを信じると言ってくれたのだから。
それでもすぐに顔を合わせて会話はできないと思い、毛布をかぶったまま声だけを振り絞った。



「…赤司…先輩…?」



声を出してから、少しの間が空く。

幻聴だったかもしれない。
そう思ったけれど、そうだとするとこのいつまで経っても消えない気配に説明がつかない。
いくら精神が参っているからとはいえ、幻聴を聞くまでには至っていないはずだ。

純奈がどうすればいいのか迷っていると、また声が返ってきた。



「…他のみんなはもう帰ったよ」

「…」

「黒子と戻ってきたんだ」

「…黒子先輩…?」



美里香や先輩たちがもういないと知って、悲しいことに安心してしまった自分がいることに気付く。
そして、赤司先輩だけではなく黒子先輩まで戻ってきてくれたなんて思わなかった。
ただ、黒子先輩は何も言い出してこないから本当にいるのか分からない。
それに、赤司先輩の落ち着いた口調に安心する反面、恐怖を煽られているような気がした。

返事をしてしまった以上、沈黙を続けることにも限界を感じて、そろそろと毛布から顔を出してゆっくりと体を起こす。
すぐに黒子先輩の姿が視界に入るけれど、先程のことを思い出して、決まりの悪さから目を逸らしてしまった。
こちらが言い出すより先に、もうすでに二人とも病室に置いてあるパイプ椅子に腰を下ろしている。


二人の突き刺さるような視線を一身に受けながら、純奈は身を小さくした。
言い訳をする気はない。
したところで、言い逃れができるような赤司先輩ではないことはよく分かっている。
何も言わずに沈黙のままでいるのは辛いと思い、小さく呟いた。



「…来てくれて、ありがとうございます…」

「ああ、久しぶりだね」

「…そうですね」

「…間宮さん、少しでも話せそうでよかったです」



二人とも、どういうことか核心に触れるようなことを言い出してこない。
てっきり二人は怒っていると思っていたから、その反応に違和感を覚えてしまった。
こういうことは言い出した私の方から切り出すべきだと暗に意味しているのか。

罪の意識を拭えないまま、どちらに言うわけでもなく小さい声を出す。






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