「…黒ちん、なんでそんなにじっと見て…あ、なんかついてる?」
「いえ、何もついてませんよ」
「んー…あ、じゃあ、もしかしてこの飴がほしいとか〜?」
「…はい、ほしいです」
「んじゃ、一個だけあげる〜」
「ありがとうございます」
決してほしかったわけではなかったけれど、言い訳のためにも素直に受け取っておくことにした。
紫原くんは至って変わりない。
受け取った飴をポケットの中にしまった。
自分の隣で見ていた桃井さんにも飴を手渡している。
桃井さんも見るからに元気がなかった。
いつもの笑顔が見られない。
桃井さんは紫原くんからもらった飴を指先でいじりながら、小さい声で呟いた。
「今日はもう…赤司くんの言う通り、帰った方がいいと思う…」
「…そうですね」
「みんな待合室に行ってるって言ってたよー」
「そうなんだ…それじゃ、行こう?」
桃井の言葉に頷いて、黒子は黙ったまま歩き出した。
二人の後ろを赤司と紫原がついていく。
足を進めれば進めるだけ、間宮さんとの溝が深まっていくような気がした。
目には見えない距離が間宮さんとみんなを隔絶していく。
この距離を埋める術を知りたかった。
大嫌い、そう叫んだときの間宮さんの顔がいつまで経っても頭から消えてくれない。
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