美里香が黄瀬たちの方に顔を向けた瞬間、今にも泣き出してしまいそうな表情になっていることに気付いた。
黒子は固唾を呑んで、両隣にいる黄瀬と緑間の様子を探る。
二人とも戸惑いと怒りが入り交じった面持ちで、ゆっくりと視線を美里香から純奈に移した。
青峰も口を固く結んだままだ。
桃井だけは戸惑いが大きいようで、純奈と美里香を交互に見比べている。

やがて、黄瀬が怒りを押し殺したような声で呟いた。



「美里香ちゃんは純奈ちゃんのこと、本当に心配してたのに…!」

「…っ」



そのとき、黒子があることに気付く。

間宮さんの手が震えていた。
こんな状況になってまで、みんなからの非難の目を一身に浴びる間宮さんを見ているともう黙っていられない。
小さく息を吸い込んで、黄瀬くんに声をかけた。



「気持ちは分かりますが…少し落ち着いた方がいいと思います」

「…だって、これじゃ…美里香ちゃんが可哀想すぎるじゃないスか…!」

「黄瀬先輩…いいです、大丈夫です」



黒子が返事をする寸でのところで美里香が間に割り込んだ。
その様子に黒子が眉をひそめたけれど、美里香は気にすることなく話を続ける。



「純奈も、もしかしたら入院して疲れてるのかもしれないから…あたしも、いきなり来ちゃいましたし…」

「…で、でも…」

「美里香…」



黄瀬だけではなく緑間や青峰、桃井も美里香に不安げな眼差しを向ける。
全員の心配を和らげようと美里香が笑いかけた瞬間、引き裂くような声が室内に響いた。





「もう…もう、帰ってよ!!美里香なんか…先輩たちなんか…だいっきらい!!!!」





今日だけで、何度こんな感覚を味わわなければいけないのだろうか。

嫌いと言ったのは間宮さんの方なのに、その顔があまりにも辛そうなもので、これ以上見ていられなかった。

みんなは、間宮さんにそれぞれのストレスをぶつけるためにこんな酷い言い方をしているわけではない。
そんなことは分かっている。
本当のことを知らないから結果的に間宮さんを傷付けるようなことをしてしまっているのだ。
しかし、知らないということを差し引いてもこれは酷すぎる。


黒子の心情とは裏腹に、四人はまるで危険なものを見るような目付きで純奈を見ていた。
先程まで意識せずとも聞こえていたはずの外界の音が全く聞こえない。






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