「本当…これからは注意しないと」



静かな声で美里香が呟く。
どうやら、その声は小さすぎて後ろの方に立っている先輩たちの耳には届いていないようだ。

背中に嫌な汗が伝う。
この低い声は、危険なものしか感じられない。
どこか楽しそうな口調に目の前が眩みそうになる。





「下手したら、次は死んじゃうかもしれないんだから…ね?」





はっと目を見開いた。
耳元で囁いた美里香の口元は、やっぱりあのときと同じように笑っている。

いつも気付いてほしいと願っていたけれど、先輩たちは気付いてくれない。

今までのことについて、反省をしている様子は微塵も伝わってこなかった。
罪の意識を感じるどころか何事もなかったかのように過ごして、こんなことを言い出すなんて。
ただただ怒りが込み上がる。



「…触らないで…!」



振り絞るような声を出して、純奈は美里香に添えられていた手を思いきり跳ね除けた。
乾いた音が響いて、美里香もこんなことをされるとは思っていなかったのか、呆気にとられた表情で純奈を見つめる。
しかし、純奈は返事をすることなく美里香をじっと睨みつけた。
突然の出来事に、黒子たちは驚いた様子で二人のやりとりを見つめている。

水を打ったような静けさに包み込まれた。



「美里香…どうして来たの…?」

「純奈…」

「もう、近寄らないで…顔も見たくない!出てって!!帰ってよ!!」

「っ…」



純奈の叫ぶような声が病室に響き渡る。


美里香もバカではないから、こんなことをする以上は気付かれないという絶対的な確信があるのだろう。
でも、美里香の演技に騙されて仕方なく自分を気遣ったりする先輩たちの姿は見たくない。
何より、悲しみの演出なんか…いらない。ほしくない。


室温が変わってしまったのではないかと思うくらい、空気が冷たくなったような気がした。

まるで、全てが凍りついてしまったかのように。





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