「純奈!」



入口のところにいた先輩たちを押しのけて、美里香が誰よりも早く私の傍に駆け寄ってきた。
嫌でも身構えてしまう。

赤司先輩と黒子先輩しか、きっと本当のことは知らない。
他の先輩たちは何も知らないだろうから、美里香の行動は友達思いの一言に尽きるのだろう。
だけど、私は美里香に突き落とされてこんなことになったのだ。
友達も何もあるはずがない。

これまで何度も思ったけれど、優しい美里香を思い出すと、今の姿は目にするだけで悲しくなってしまう。
しかし、胸の中に渦巻いているのは悲しみや恐怖心だけではなかった。



「純奈…大丈夫?」

「…」

「みんな、心配してたんだから」

「…」



美里香が心から励ますように声をかける。
しかし、純奈は呆気にとられたまま、何も返事をしなかった。


こんな目に遭わせておいて、美里香は何を言っているのか。
そして、微笑みを浮かべながら見え透いた嘘を吐く美里香が怖くてどうしようもない。

美里香のことを信じたかった。
本当に、本当に支えてほしかった。
けれど美里香は私のことを平気で裏切って、それでいて楽しんでいるような様子さえ見せている。



「階段から落ちたって聞いたときは、冗談かと思ったけどな」

「私もびっくりしたよ…」

「そんな状態になったから分かっているとは思うが、これからは十分に注意するのだよ」

「そうっスよ、本当に…美里香ちゃん、すごく心配してたんスから」



どれもこれも不思議な気遣いだった。
きっとそれは、美里香が言い出したことだから仕方なく協力しているというのがなんとなくでも感じ取れてしまうからかもしれない。
自分の性格が歪んでしまったのだろうか…そう思いながら、純奈は返事をすることもなく静かにうつむいた。

そのとき、美里香にそっと手を重ねられる。
手の甲に美里香の手のひらが被さり、それからすぐに顔が近付いてきた。






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