純奈は窓を開けて、外の空気を吸い込む。
まだ完全にではないけれど、あれから補助する道具がなくても歩けるようになった。


またあんな散々な日々を送ることになる。
そう思うと、夜もなかなか眠れなかった。
でも、赤司先輩と黒子先輩のことを考えると少しだけ落ち着きを取り戻せる。
心の拠り所となってくれる人が現れて、以前よりは憂鬱にならなくなった。


ベッドに戻って、毛布を軽くかける。

何をするにも制限があってなかなか思うようなことができない。
傍に置いてあった読みかけの本でも読んでしまおうと手を伸ばしたとき、戸をノックする音が聞こえてきた。
いつものように春日さんだろうと戸の方を確認することなく、どうぞ、と返事をする。





カチャ、と静かに戸の開く音が響いた。

そこでようやく目を向けた瞬間、本の伸びかけてきた手の動きが止まった。
時が止まってしまったような気がする。
黒子先輩がいて、その後ろには黄瀬先輩、緑間先輩、青峰先輩、桃井先輩…そして、信じられないことに美里香までいた。
頭部を思いきり殴りつけられたような衝撃を受けてしまい、何も言うことができない。


どうして、美里香と先輩たちがここにいるの…?


震える瞳に映る、バスケ部の先輩たちの姿。
随分長いこと見ていなかったような気がする。

しかし、先輩たちにかける言葉なんてとても見付からなかった。
赤司先輩と紫原先輩がいないことにはすぐに気付いたけれど、疑問を口にすることさえできない。


純奈が激しく動揺していることに気付いて、すぐさま黒子が声をかけた。



「間宮さん、突然みんなで来てしまってすみません…赤司くんは受付で手続きをしていて、紫原くんは…」

「…さっきまではいたはずなのに、気付いたらいなくなっていたのだよ」

「…そういうことなんです」



黒子先輩と緑間先輩の会話で、ようやく我に返る。

最後に会ったときに赤司先輩に伝えたことは黒子先輩にも伝わっているのだろうか。
そんなこと、とても聞くわけにはいかない。
何一つ安心できる要素を得られないまま、今度は青峰先輩が自分に声をかけてきた。



「…思ったより、元気そうじゃねえか」

「青峰先輩…」

「あのね、みんなでお見舞いに来たの」

「……」



信じられないけれど、ようやく少しばかり状況を把握することができた。
どういうことか、先輩たちがお見舞いに来てくれたようだ。
黒子先輩は最初に口を開いたきり黙り込んでしまい、心配そうな表情でこちらを見ている。


本当に、どうしてこんなことをしようと思い立ったのか。
理由は一つしか思い当たらない。

美里香だ。
絶対に美里香が何か言い出したのだろう。
そうでない限り、先輩たちがこんなところにわざわざ足を運ぶはずがない。


入院することになった元凶である美里香が視界に入ってきて、込み上がってくるものを抑えきれない。
それでも必死に平静を保ちながら、指先の震えを隠すように毛布を堅く握り締めた。






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