お母さんが帰ってから、すぐに病室に戻る気にもなれなくて外に出ていった。

赤司先輩と話した中庭の方に向かっていく。
松葉杖の扱いにも大分慣れてきた。
どこにいても、何をしても、どうしても退院のことが頭から離れない。
落ち着きたいのに落ち着けないもどかしさを抱えたまま、ぼんやりと空を見上げる。


人がまばらに行き交う中、運よく空いていたベンチに腰を下ろして松葉杖を横に立てかけた。

一人きりになってもキセキの先輩たちのことを、バスケ部のことを思い出すと胸が痛む。
肉体は治りつつあるのかもしれないけれど、心の傷はどれだけ時間が経っても癒える気がしなかった。

純奈は小さい溜息を吐いて、途方に暮れたように地面に目を伏せる。
このまま学校に戻ったところで、どういう風に過ごせばいいのだろうか。
教室で授業を受けたり、バスケ部でマネージャーとして活動している自分の姿を想像することができない。
何をしたところで今から取り戻すことなんて無理なんじゃないか。

そう思った瞬間、誰かに肩を叩かれた。
顔を上げると春日さんがいつものように笑いかけてくれる。



「純奈ちゃん、病室にいないから探しちゃった」

「…ごめんなさい。ちょっと、外の空気が吸いたくて…」

「ううん、いいのよ。先生から聞いたけど…もうすぐ退院できそうなんだって?」

「は、はい…治りが早いみたいです」

「うん、体の調子はよさそうだなって思ってたんだ」



春日さんが隣に腰を下ろす。

ここにいる間、本当に色んな人に助けられた。
春日さんはもちろん、こんなところに来る必要もないはずの赤司先輩や、黒子先輩までわざわざ来てくれたのだ。
自分の優しく接してくれる人なんてもう周りには一人もいないと思っていたからこそ、その存在は大きいものだった。
そのことを思い返すと、今はとても普通に生活している姿を想像できなかったとしても、なんとかしていかなければいけない。
ただそんなことばかり思ってしまう。






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