「…赤司にも言われたからな」
「そうなんですか…」
「間宮のことは、全く気にしていなかったというと嘘になるが…」
「…え?」
「とにかく、今も聞くに堪えない噂が尽きん。こんなことになるまでは本当にそんなことをする奴だとは少しも思っていなかったのだよ」
「…そう、ですね…」
「…見咲もそうだろう」
「はい…」
そんなことない。
噂で言われているようなことは、純奈は何一つとしてしていないだろう。
それは誰よりあたしが知っているはずだ。
それにしても、純奈の噂はいつになったら落ち着くのだろうか。
ほとぼりが冷めたら、飽きて忘れ去られてしまうだろうと思っていたけれど、純奈の噂はあたしが想像していた以上に根強いものだった。
その理由にはきっと、キセキの先輩たちに近い存在だからということも含まれているだろう。
あれだけ学校中から羨望の眼差しを一身に受けている人の傍にいるということは、つまりはそういうことなのだ。
もっとも、キセキの先輩たちにその自覚があるのかないのかは分からないけれど。
急に黙り込んだ美里香のことが気になったのか、緑間も口を閉じる。
はっと我に返ると美里香はまた緑間に笑いかけた。
「でも、純奈のために行こうと思ってたから…緑間先輩も来てくれるって聞いたとき、嬉しかったです」
「…俺は別に間宮のためではない」
「…そうなんですか?」
「…なんで笑っているんだ」
「笑ってなんかいません」
「も、もういいのだよ。俺は先生のところに用事があるから、またな」
多少は純奈のことを気にしていたのか、美里香に核心を突かれるような反応をされて、緑間は動揺を隠すようにそそくさとその場から離れていった。
緑間がいなくなってから美里香は先ほどまで浮かべていたものとはまた別の笑みを浮かべる。
緑間先輩…あの様子だと、きっと純奈のこと、本当に信用してたのね。
生真面目な性格だからこそ、裏切られたことによる絶望が大きいのかもしれない。
そういうこともあって、純奈にきつく当たっていたのだろう。
…その信用、これからあと何回くらい裏切ることになるのかしら。
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