「…はあ…」
大きく息を吐いて黒子は更衣室に入っていく。
今日は格別に厳しい練習内容だった。
キセキの人たちに比べると内容的には抑えられているはずなのに、やはりついていくだけで精一杯だと痛感する。
練習に入るのも遅れてしまったため、今日は最後の最後まで居残ることになってしまった。
更衣室にはもう誰もいないだろう、そう思っていたけれどなぜか黄瀬くんが長椅子に腰をかけて、音楽を聴いて寛いでいる。
黄瀬くんだけではなく紫原くんもいて、いつものまいう棒を咥えながらのんびりとシャツのボタンを留めているところだった。
二人とも先に上がったと思っていたから、反応に困ってしまう。
更衣室の前でこちらをじっと見ている黒子に気付いた黄瀬は、姿勢を直してイヤホンを耳から抜いた。
そして笑顔を浮かべながら軽く手を振る。
「黒子っち、お疲れ!」
「もうとっくに帰ったと思ってました」
「俺もちょっと前に終わったから待ってたんスよ。それが、聞いてほしいんス!」
「なんですか?」
「紫原っち、一緒にお見舞いに行ってくれるって!」
「んー…赤ちんが来いって言ったからー」
間の伸びた声で、顔を向けることなく会話に入ってくる紫原。
黒子は自分のロッカーの前まで歩いていき、制服を取り出した。
赤司くんはもう紫原くんに話してくれたのか、そんなことを思いながら制服のシャツに袖を通す。
そのとき、ふと気になっていたことを思い出して黄瀬に顔を向けた。
「お見舞いなんですけど…いつ行くつもりだったんですか?」
「ああ…美里香ちゃん、いつ行きたいとか言ってなかったんスよね…それに青峰っちにはまだ伝えてもないし…」
「え?土曜日の部活の後なんじゃないの〜?」
「土曜日?」
「赤ちんが言ってたもん」
「あ、赤司っち…段取り早ッ!ていうか、モデルの仕事なくてよかった…急な日程で予定が入るとスケジュール調整が大変で…」
「紫原くん、帰りにコンビニでも寄りませんか」
「うん、俺も行きたいと思ってた〜」
「…すみません、ごめんなさい、無視しないでほしいっス…」
がっくりと肩を落として黄瀬は寂しそうに呟いた。
赤司くんが話をすれば、きっと緑間くんだって来てくれるだろう。
なんだかんだで紫原くんも来てくれるようでよかった。
見咲さんが何か目論んでいるのではないかと思ったけれど、みんなで行けば大丈夫なのではないかという安易な希望が生まれてしまう。
ただ、唐突に精神的外傷の根源であるキセキのみんな、そして見咲さんや桃井さんに会ったときの間宮さんの衝撃が心配だった。
間宮さんにとって僕たちの存在が大きければ大きいほど、その傷はきっと深くて塞がりにくいものだろうから。
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