赤司が頷いてくれたことがよほど嬉しかったのか、黄瀬は見るからに元気を取り戻して練習に戻っていった。
その場には黒子と赤司だけが取り残される。
嵐のような人だ…そう思いながら黒子は息を吐いた。
ちらりと赤司に目を向ける。
赤司ならば自分のこの微妙な感情を少しでも理解してくれるのではないかと若干の期待を抱きながら声をかけた。
「ありがとうございます、赤司くん」
「黒子が気にすることはない。それに、心配なんだろう」
「…少しだけ」
「…まあ、色々と気になることはあるな」
「はい。突然みんなで押しかけたりして間宮さん…困らないでしょうか」
「そうだな、それは少し考えていたよ」
「とてもこんなサプライズを受け入れられるような心境じゃないでしょうし…」
そういえば、間宮さんの連絡先なんて知らなかった。
携帯番号どころかメールアドレスも知らない。
こんなときに知っていれば前もってみんなが行くことを伝えることができるのに。
間宮さんにとって、今のキセキの人たちがどのような存在であるか分かるだけに不安が募る。
黒子が暗い顔をしていることに気付いたのか赤司が声をかけた。
「…僕たちが行かずに、黄瀬たちだけで行かせることの方が心配だとは思わないか?」
「それは、もちろんそうですけど」
「美里香が言い出したんだ、どうしても行くだろう。それなら僕たちも行くだけの話だ」
「…」
「そのときにならないとどうしようもないこともある、今から思い悩んでも仕方ないだろう?」
赤司の物事を達観するような瞳に黒子は何も返事ができなくなる。
どうしようもない話だが、赤司に自信をもって言い切られてしまうと本当に大丈夫なのではないかと錯覚してしまうほどだった。
一通りの話を済ませると赤司はボールを持ち直して緑間と紫原に目を向ける。
「あの二人には僕から話した方が早く済みそうだな」
「…緑間くんと紫原くんですか?」
「黄瀬の話からするとなかなか頷かないかもしれないだろう」
「そうかもしれません、お願いします、赤司くん」
「ああ。…そういえば、黒子は朝礼に来ていなかったから個人メニューをまだ渡してなかったね。ほら、これだ」
「え、あ…すみません」
「じゃあ、僕も練習に戻るよ」
黒子に目を向けることもなく赤司は練習に戻っていった。
自分もそろそろ本腰で練習に入らなければ、そう思いながら赤司から手渡された個人メニューに目を通す。
その過酷な練習内容を見て、黒子は青ざめながら用紙を静かに畳んでポケットの中にしまった。
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