「黄瀬くんがそんなことを言い出すなんて信じられません。突然ですね」
「なんかそれ酷くないっスか!?…まあ、突然といえば、その通りなんスけど…」
「何かあったんですか?」
「…美里香ちゃんが、純奈ちゃんのお見舞いに行きたいって言ってて…でも、俺たちにもついてきてほしいみたいで」
「…見咲さんが?」
「うん。純奈ちゃんも一人で寂しいだろうからって…だから、さっき緑間っちに声かけてみたんスけど」
そこまで言い終えると、黄瀬は口を閉じて苦笑いを浮かべた。
だから、緑間くんがあんなことを言っていたのか。
ようやく話の合点がいった。
おそらく、黄瀬くんが見咲さんのことを思って、代わりにキセキのみんなに声をかけようとしていたのだろう。
見咲さんがそんなことを言い出すなんて、今になってようやく自分のしたことに罪の意識を感じてくれたのだろうか。
分からないことはまだ多くあるけれど、一つだけ自分の中で確かなことがある。
見咲さんを一人で間宮さんのところに行かせることはできない。そんなこと、させたくない。
とにかく今はどんなことがあっても警戒していなければ、そう思いながら黒子は黄瀬に顔を向けた。
緑間にさぞ手厳しい言葉を浴びせられたのか、黄瀬は少しばかり諦めの浮かんだ表情で黒子に視線を落とす。
「間宮さんのお見舞いなんですよね。僕、一緒に行きますよ」
「え!?よ…よかった、黒子っち、ありがとう!」
「あんまりくっつかないでください」
「うう、やっぱり酷い…」
「あ…ほら、ちょうど赤司くんも来ましたよ。せっかくだから話しておかないと」
「赤司っち!?ちょ、ちょっと赤司っちは心の準備が…」
「何を言ってるんですか。赤司くん」
赤司にも手厳しい言葉を投げつけられると思っているのか、黄瀬はあたふたしている。
まるで気に留めることもなく、黄瀬の隣にいた黒子が赤司を呼び止めた。
名前を呼ばれた赤司はボールを片手に持ったまま、立ち止まって二人の方に顔を向ける。
「なんだ」
「練習中にすみません、少しだけいいですか?」
「手短に頼むよ」
「…黄瀬くん」
「えっ!?あ、ええと…純奈ちゃんのお見舞いに行こうって話を黒子っちとしてたんスけど…」
「赤司くんにも来てもらいたいんです」
「…」
赤司は表情を変えることなく、じっと黄瀬の顔を見つめた。
自分と同じように意外だと思っているのだろうか、黒子は赤司の反応を窺う。
即座に頷くこともなく、少し考えるような素振りを見せて、黄瀬に向かって口を開いた。
「それは黄瀬の提案なのか?」
「いや、正確には美里香ちゃんの提案…かな…」
「…そうなのか」
「緑間っちには話したけど、あんまり乗り気じゃなさそうっていうか…赤司っちも、やっぱダメっスか…?」
「僕は別に構わないよ」
「え!ほ…本当っスか!赤司っちがそう言ってくれると、ありがたいっス!」
「…黄瀬くん、青峰くんや紫原くんにも声をかけないと」
「それなら、青峰っちと紫原っちと桃っちには俺たちから話しておくっス!」
「俺たち、の中にまさか僕も入ってるんでしょうか」
「いいからいいから!それじゃ、俺も練習に戻るっス!」
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