「…そうですね。純奈がいなくなってから…純奈がいてくれて助かったって思うことが、けっこうあるんです」

「そうなのか?」

「はい。だから…部活に戻ってきてくれるみたいで、本当によかったです」

「そう思ってもらえるのはこちらとしても助かるな」

「…」

「…もうあんなことがないことを祈りたいね」

「…本当…そう、ですね」



うつむいて呟く。
けれど、赤司先輩にちらりと目を向けられたとき、確信した。
この人は何かをしっている、ということを。

もちろん、どこまで知っているのかは分からないけれど、あの目は何も知らないというものではなかった。
これはまずいかもしれない…それでもこんなところで慌てた間抜けな姿を見せるわけにもいかない。
今の今になって、すぐにどうこうできるという問題でもないのだ。
何を考えているのかは知らない。
でも、今は赤司先輩の画策の対象として話をするつもりなんてこれっぽっちもない。

美里香は給水器を持ち直して赤司に微笑みかける。



「あの、そろそろ行ってもいいですか…?これ片付けないと、遅くなっちゃいそうなので…」

「…ああ、時間をとらせてすまなかったね」

「いえ、全然!失礼します」

「…」



再び赤司に微笑みかけて、美里香は軽く頭を下げてから第一体育館から出ていく。
体育館から出ていくまで赤司は美里香を見つめていた。


美里香の様子は今までと何も変わりなかった。
それどころか、純奈のことを心配して、部活に戻ってくることを純粋に喜んでいるようにさえ見える。
表情や口調、仕草の一つ一つをどれだけ注意深く窺ってもそうとしか思えないほど美里香の対応は完璧だった。

怖いほど、非の打ち所がなかったのだ。





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