今日は桃井が部員たちの個人データをとらないといけないということで、美里香は一人でドリンクを作って給水器を運んでいた。
一人で作って持っていくという全ての作業はさすがにすぐに片付けることができなくて、それなりに時間がかかってしまう。
それでも手際よく作業を進めて、なんとか残りの配給が一軍の分だけとなったところで美里香は小さく息を吐いた。


純奈も桃井先輩もいないとなると本当に大変だ。
でも、こんなことはどうということはない。
重い給水器を運んだ翌日に腕が筋肉痛になっていた入部当初を思い出せば、今なんて楽なものだった。
それに、一人であろうとマネージャーの仕事を疎かにするわけにはいかない。


タオルはもう運んでおいた。
あとは、この給水器を運べば一段落つく。

給水器を持って一つずつ一軍の体育館に運んで指定の位置に置いていった。
そして最後の給水器を置いたところで辺りを見回す。
すぐに近くで練習をしていた赤司先輩と目が合って、赤司先輩が休憩の号令をかけた。

号令をかけたと同時に黄瀬先輩がこちらに向かって走ってくるのが見える。
その表情がなんだか嬉しそうなものだったから気になって声をかけてみた。



「黄瀬先輩、何かいいことでもあったんですか?」

「あ、美里香ちゃん!今日は久しぶりに黒子っちとパス練できたんスよ!」

「そうなんですか…あれ、そういえば…青峰先輩は?」

「今日は来てないみたいっス。このところ真面目に出てるな、って思ってたのに」



黄瀬は意外そうな顔で体育館内を見回して呟く。
そんな黄瀬の姿をじっと見つめながら、美里香は考えていた。


…やっぱり、やっぱり、前も思ったけど…何かおかしい。
黒子先輩と青峰先輩、何かあったの…?
本当はあたしが気にするようなことでもないと思うけど、前も気になったから、気のせいなんかではないはず。
黒子先輩はいつもと特に変わらない静かな感じだし、もともとあんまり話すような仲ではないからこんなことをいきなり聞けないし…。


悶々と考えていたとき、紫原先輩がこちらに向かってくるのが見えた。
片手に紙コップを持っていて、気の抜けた声で話しかけてくる。



「美里香ちーん…何かお菓子とか持ってなーい?」

「お菓子?」

「うん、もうなくなっちゃって〜」



気落ちした様子で呟いて、自分のポケットに手を突っ込んでお菓子の空き袋を見せてきた。

紫原先輩は練習中もたまに飴を舐めていたり、休憩の時間になるとどこから出したのかスナック菓子の小袋を片手に何かしら口にしているのを知 っている。
だからといって、まさかあたしも同じようにそんなものを持っているはずがない。
仮にも今は練習中だ。
それに、紫原先輩だからこそ練習中でもお菓子の所持を許されていると思っていた。

お菓子がなくなってしまったからか寂しそうな表情を見せつけられて困ってしまう。






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