「…どうしたんスかね…」

「間宮の入院先にわざわざ行ったとは、信じられないのだよ」



ボールを持って練習に向かうとき、黄瀬くんと緑間くんが赤司くんのことを気にしながらひそひそと小声で話をしていた。
ちょうどその近くを通りかかったものだから黄瀬くんに呼び止められる。



「黒子っち!」

「なんですか?」

「びっくりしなかったっスか?」

「びっくりというのは、何についてでしょうか」

「さっきの赤司の話だ」

「…怪我をして入院したマネージャーのことまでしっかり気にかけていて、すごいと思いました」

「…それだけか?」



緑間くんが訝しげに眉をひそめた。
言いたいことはすぐに分かったけれど、それは本人から直接的な言葉ではあまり聞きたくなかった。

黄瀬くんと緑間くんだって、本当なら間宮さんに対してこんな言い方をするはずがない。
あの緑間くんでさえ、苦手な年下であるはずの間宮さんと見咲さんのことは何かと気にかけていたことを知っている。
それにしても、本人が目の前にいないからといってここまで言わなくてもいいのではないか。

しかし、その思いとは裏腹に緑間ははっきりと言い放った。



「もう、バスケ部のマネージャーとしても必要ないのではないかと黄瀬と話していたのだよ」

「怪我しちゃったし、もうマネージャーの仕事もできなくなっちゃうんじゃないかって」

「…二人とも…本気でそんなこと思ってるんですか?」

「…どういう意味だ」

「あんなに仲良かった人のことを…そんな簡単に忘れたんですか?」

「…く、黒子っち?」

「…やはり、黒子とはとことん意見が合わないのだよ」

「……」



そこまで会話をしたところでふいと二人に背中を向けて黒子は歩いていく。
ぐっと息を呑んでボールを持つ手に力を込めた。
内心、とうとう堪えきれなくて言ってしまったとすぐに反省する。
それでもあまり後悔はしていなかった。


気を取り直して黒子は青峰のいるところに向かっていく。
黒子は青峰に練習中に少しだけ時間を割いてもらって自分のパス練習に付き合ってもらっていた。
練習試合でも二人の連携が必要となる場面が多くある。
おまけに青峰はたびたび練習に来ないときがあるから、こうして来ているときは必ず短時間でも練習相手を頼んでいた。

黒子がやってきたことに気付いた青峰が笑顔を見せる。



「おし、やるか」

「…すみません、青峰くん」

「…んだよ、改まって」



青峰の顔から笑顔が消えて、今度はわけが分からないと言わんばかりの顔をしている。
黒子は不可解そうな青峰を見上げて、その目を見据えたまま口を開いた。



「僕は、青峰くんのこと…とても大切な仲間だと思ってます。感謝もしてます」

「は!?いきなりどうしたんだよ!?」

「聞いてください。…しばらくの間、僕のパス練習には付き合わなくて大丈夫です」

「は…はあ!?」

「もともと時間を割いてしてもらっていたので、何より青峰くんの練習時間がなくなってしまいます」

「…」

「…それから、今は…連携もあまりうまくとれそうにないと思うので…」

「おい!どういう意味なんだよ、それ…お前のパス練なんて俺くらいしか…」

「勝手なことを言ってすみません」

「…ったく…もう、好きにすりゃいいだろ」



二人の話はほとんど噛み合っていなかった。

全てを言い切ると黒子は青峰に小さく頭を下げる。
好きにすればいいとは言ったものの青峰は不服そうな顔をしたままで、黒子の話に納得できていないようだった。
唐突に言い出してしまったものだから無理もないと思いながら黒子はもう一度だけ頭を下げる。


青峰くんとこんな関係は嫌だ。
早く、また一緒にパス練習をしたい。
それでも間宮さんのことを考えて、黙ったまま青峰くんの前から立ち去った。
















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