あれからどうなったのか、救急車が来たのか、間宮さんが運ばれるところまでついていくことができなかった。
先生たちにこの状況について何か知っているかと聞かれていた覚えはある。
でも、ろくに何も話せなかった。

ただただ頭の中に、見咲さんが間宮さんを突き落としている場面だけが目に浮かぶ。

それから、重い足取りで体育館に入っていった。
部活の時間はとっくに始まっていて、けれど自分が来たことにはまだ誰も気付いていない。
いつもと同じ何も変わりない風景なのに、ここはどこなのだろうかと思ってしまった。



「黒子」

「あ…赤司くん」

「こんなに遅くなって、どうしたんだ。今日はもう来ないのかと思ったよ」

「…」



誰にも気付かれないうちに練習に参加しようと思ったけれど、やはり赤司くんに見付かってしまった。
赤司くんの目を潜り抜けることはとても難しいと自覚があっただけに、何も言えなくなってしまう。
そもそも今日はあんなところを見てしまって、部活なんてしていられる心境でもなかったけれど、無断で休むこともできずにここまで来たのだ。

赤司くんは手に持っているファイルに落としていた視線を上げて、こちらに目を向けた。
その瞬間、目を丸くされる。



「どうした?」

「え…」

「…体調、悪いのか?」



赤司くんに心配の声をかけられて、気付いた。

顔面蒼白、ふと頭の中にそんな単語が浮かび上がる。
今の自分ならば、顔色が悪くても何も疑問がない。
赤司くんにこんな心配そうな声をかけられてしまうなんて、そんなことを思いながらも黒子は口ごもった。
けれど、今こんなところであの状況の説明をすることなんてとてもできそうにない。

赤司くんに嘘が通用しないことは承知の上で、呟いた。



「…はい…あの、練習着に着替えてしまったんですけど…今日は休ませてもらえませんか…」

「…分かった、いいよ」



さすがに顔色が悪すぎたのか、赤司くんは特に理由を追求してくることなく頷いてくれた。
いきなり来てこんなことを言ってしまい申し訳ないと思いながらも、今日は本当に練習ができそうになかったから、深々と頭を下げる。

そんなやりとりをしていると、どこからかチームのメンバーたちが周りに続々と集まってきた。
二人で話しているところを見付けたのだろう、一番に黄瀬くんが声をかけてくる。



「黒子っち!見付けたー!!もう、どこにいたんスか…今日は本当に見付けられなかったっスよ!!」

「うるせーよ!さっきまでどこ見てもいなかっただろーが!テツ、なんかあったのか?」

「黒ちんがこんなに遅くなるとか、珍しすぎ〜」

「そうだな…まったく、どうしたんだ」



わらわらと集まってくる中に見咲さんの姿を探した。
しかし、ここにはどうやらいないようだ。
少しばかり安心してしまう。

どうしても今はもうこの場から立ち去りたくて、みんなにも頭を下げた。



「すみません…今日は具合が悪いので…もうこれで帰らせてもらいます」

「ええええ!?あ…本当に顔色が悪いっスね…黒子っち、大丈夫…?」

「…すげー顔だな」

「あららら〜…今日はごはん食べて〜早く寝た方がいいよ〜」

「…ふん、体調管理はしっかりするのだよ」



自分以上に背の高い四人それぞれに顔を覗き込まれて、声をかけられる。
失礼します、と返事をして体育館から出ていこうと出口の方に向かっていった。






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