この期に及んで、黒子は純奈が一体何を考えているのか理解できなかった。
あんな目に遭いながら何も言わずにどうしようというのか、せめて美里香には言うべきではないかと黒子はぐっと息を呑む。
そんな黒子の思いを見透かすかのように赤司は言葉を続けた。



「約束なんだ、破ってくれるなよ」

「…それで本当にいいんでしょうか」

「…黒子はどうしたい」

「見咲さんに言いたいです。あんなことをして…本当にいいと思ってるのか、どうしてあんなことをしたのか、聞きたいです」

「気持ちは分からなくない。…だけど、純奈は僕たちがそうすることを望んでない」

「…どうしてなんでしょうか…もう、何がなんだか分からないです…」

「…僕たちに、まだ気を遣えるだけの余裕があるということだろう」

「…」



赤司はなんてことないように呟く。
今の純奈にそんなことまで考えられる余裕があるのも、きっとこれまで赤司がいたからだろうと黒子はすぐに思った。

思い返してみても、赤司くんが間宮さんにきつく当たっているところなんて見たことがない。
緑間くんや黄瀬くんが間宮さんに何か言っている姿は何回か見たことがあるけれど、赤司くんに関しては本当に覚えがなかった。

ふとそのときの光景を思い出してしまい、黒子は口を閉ざしてしまう。
それを見て赤司は小さく息を吐いた。



「純奈に対して申し訳ないと思ってるなら、今は純奈の望み通りにしてやらないか?」

「…」

「…僕も、今はもうそうするしかないと思ってる」

「それは…僕たちが間宮さんのためにできることですか?」

「少なくとも、純奈が僕たちにしてほしいと思ったことだろうな」



間宮さんが僕たちにしてほしいと思ったこと。

今は赤司くんの言葉を信じるしかなくて、小さく頷いた。
ここで自分が変に動いたりして事態を悪化させることだけはどうしても避けたい。
間宮さんにどうにかして助けてあげたいと告げた言葉は本心だったからこそ、決心した。

心の中でくすぶっていた何かが吹っ切れたように黒子は赤司に顔を向ける。

しかし、黒子が赤司の顔を見た瞬間、赤司が不思議な表情をしていることに気付いた。



「本当に…………と、思ったのにな」



赤司くんの顔をただ見つめる。
口にした言葉ははっきりとは聞こえなかったけれど、見たことのない赤司くんの表情に何も言うことができなかった。

赤司くんは、今、何を考えているんだろう。





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