「…間宮さん、どうしてるのかと思いまして」
「え…?」
「…純奈?」
「…」
会話の中で名前を出してしまい、しまったと思ったけれど二人の反応は予想通りだった。
考えるまでもなかったかもしれない。
三人の間にはどことなく気まずい空気が流れる。
それは、触れてはいけないものに触れてしまったときのものに似ていた。
桃井は黒子からふいと視線を逸らして、青峰は何を今さらとでも言いたそうな表情で面倒そうに眉をひそめている。
それを見て、こんな状況では何を言ったところで聞き入れてもらえない。
そもそもこんな態度をとられてしまっては話なんて切り出せないと思った。
間宮さんもこういう反応をされて、今の自分のように思ったのだろうか。
考えると考えるだけ、黒子の表情はますます曇っていく。
「純奈ちゃん…足、踏み外しちゃったんだよね…階段から」
「あー…あれだろ。やばいことばっかりしてたから罰が当たったんだろ、多分」
「…青峰くん…」
「なんだよ、テツ…変な顔して」
「…すみませんが、今日は日直の仕事があるので先に行かせてもらいます」
「え…あ、テツくん!」
「おい!」
青峰くんの言葉がうるさいほどに頭の中に響く。
どうしても我慢できなくて、その場から立ち去ってしまった。
日直の仕事があるなんて嘘だ。
咄嗟に吐いてしまった嘘に黒子は少しだけ動揺したけれど、今はもう二人と会話を続けていられる自信がない。
後ろから青峰くんと桃井さんの呼ぶ声が聞こえてくる。
しかし、それに振り返ることはなかった。
『やばいことばっかりしてたから罰が当たったんだろ』…青峰くんは、今のチームのメンバーの中で誰より信頼している。
キセキの中でも、おそらく一番多くの時間を共に過ごしてきたはずだ。
心から信頼している仲間が、あんな風に真実とは程遠いことを平然と口に出しているところを、これ以上は見ていられなかった。
いつか自分が悩んで苦しんでいたときに助けてくれた青峰くんの姿を思い出すと、込み上がってくるものを抑えきれない。
しばらく歩いてきたところで、黒子は足を止める。
そして辺りを軽く見回して人気が少ないことを確認すると、歩いていた通学路から外れた道に入っていった。
辺りには誰もいない。
そこは黒子が知っている正規の通学路とは別の道から学校へ向かうことのできる通学路だった。
決して近道というわけではなく、正規の通学路より学校に着くまで時間はかかってしまうけれど何より人が少ない。
ただそれだけを気に入って、黒子はたまにこの道を歩いて学校に向かっていた。
朝の喧騒に飲み込まれたくない、正に今の状況にはこの上なくありがたい道だ、そう思いながら黒子は学校に向かっていく。
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