なんと言えばいいのか、分からなかった。

病室に戻ってから、赤司先輩は昨日のように帰り支度を始める。
車椅子からベッドに戻って、ただその様子を見つめていた。
ハンガーにかけていた上着を羽織ってから赤司先輩は戸に目を向けたまま呟く。



「…僕から話してやろうか」



話してやろうか、というのが今までの出来事であることは考えるまでもなかった。
思いもよらないことを言い出されてしまい、またもや言葉を失ってしまう。


赤司先輩…私のこと…本当に気にしてくれてるんだ…。
だから先輩たちにこのことを…。

赤司先輩が話をすれば、きっとキセキの先輩たちは何も言い返すことができないだろう。
これまでの部活の風景を見ていても分かるけれど、それくらい赤司先輩の発言には絶対的な力がある。

…でも、それは…。



「…本当に…ありがとうございます。赤司先輩にはもう、なんて言えばいいのか分からないくらい、です…」

「…」

「だけど…赤司先輩は何も話さなくて、いいです。私のことは…美里香のことも、何も話さないでください」

「…いいのか?」



意外な返答だったのか赤司先輩は驚いたような顔をしている。
それでも、迷わずに頷いた。


赤司先輩は気にしないと言うだろうけれど、赤司先輩に私が原因で他の先輩たちや…美里香との関係を悪くしないでほしい。
そんなことを話せば誰より美里香がどうなってしまうのか。
それに、本当にこれ以上…自分の問題で赤司先輩に迷惑…かけたくなかった。
こう思ってはいるのに、なんだかんだで結果的に赤司先輩に迷惑をかけてしまっている。
そして、赤司先輩が話せば簡単に解決するかもしれないけれど、その手段を使って解決したところでみんなとこれまでの関係にはとても戻れる気がしなかった。


頷いてから目を伏せたまま動かない純奈を見て、赤司は小さな息を吐く。



「…本当に、いいんだな?」

「はい…」

「……分かったよ」



少しの間が空いてから、赤司先輩はとうとう根負けしたかのように頷いてくれた。
なんとなく困ったような表情を浮かべたような気がして悪いことをしてしまったかと思ったけれど、これだけはどうしても譲れない。
それを受け入れてもらえて本当に安心した。

今日は日曜日で明日からまた学校が始まるのだ。
赤司先輩は部活のときに確実にみんなと顔を合わせるだろうから、今ここで早く伝えられてよかったと息を吐く。

そして、この週末の貴重な土日を両日とも来てくれたことに純奈は申し訳なさを感じた。
でも、謝ることはできない。
純奈は必死に言葉を探しながら赤司に声をかけた。



「あ、あの、赤司先輩…この土日、わざわざ来てくれて…本当に嬉しかったです…」

「…」

「…部活、頑張ってください」

「…うん。明日から学校だから、しばらくは来られないと思うが…部活のことはあまり心配するな」



話したかったことは、話せたと思う。
もう今の自分にできることが他に思いつかなかった。
あとは赤司先輩を信じて任せるしかない、そう思いながら口を閉じる。






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