日曜日とはいえ、夕方になりつつある病院内は昼間に比べて落ち着きを取り戻している。

純奈は赤司に何度も自分で動かせますから、と必死に抵抗したけれどそれは聞き入れてもらえなかった。
赤司に車椅子を押されながら純奈は申し訳なさから身を小さくする。
こんなことまでしてもらっていいんだろうか…考えないといけないことは他にもたくさんあるのにそんなことばかり考えてしまう。


それでも外の空気に触れると大分違った。

一日ぶりに外に出たけれど、病室にこもっていたからか外の景色がとても新鮮に感じる。
たった一日だけなのにまるで別世界から現実に戻ってきたようだった。
ぼんやりと目の前に広がる景色を見つめていると後頭部から赤司先輩の声が聞こえてくる。



「向こうにベンチがあるから、そこで話そう」



病院内の地理が全くなかったから、赤司先輩に連れられるままにベンチのところまで辿り着いた。
少しずつ空の色が橙に染まっていく。
夕暮れの中庭だからか人があまりいない。

それからは赤司先輩にどうしてもと言って車椅子から降りてベンチに座らせてもらった。
赤司先輩も隣に座って、お互いに何かを話すわけでもなくただ静かな時間が流れていく。
赤司先輩との間にはあまり会話はないけれどなぜか落ち着いていられた。
誰かといるときにこんな無言の空気には堪えられない性分だったはずなのに、どうしてか落ち着いていられる。
以前より、ずっと。

気付けいたときにはさっきまでの騒がしい気持ちはどこかへ消えてしまっていた。

風が吹いてきて髪の毛を押さえる。
今なら、少しだけ話せそうな気がした。



「……赤司先輩……」



赤司先輩は何も言わずにこちらに顔を向けた。
でも、視線を合わせたら話せなくなってしまいそうな気がして前を向いたまま小さく息を吐く。

少しずつ、考えながら、思い出しながら、言葉を探した。



「…私…足…踏み外してなんか、ないんです…あの日…」



大丈夫だろうか。
でも、もうここで話を止めることなんてできなかった。



「…美里香に…突き落とされたんです…」



赤司先輩は何も言わない。
なんだか心臓が痛くなってきた。
それでも落ち着きを失わないように下を向いて小さく息を吸い込み、吐き出すように話を続けた。






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