「純奈」
「あ、赤司先輩…」
ろくに内容も頭に入ってこない本を読んでいたとき、病室の戸をノックする音が聞こえてすぐに赤司先輩が入ってきた。
慌てて本を閉じて赤司先輩に目を向ける。
本当に今日も来てくれたことに感動してしまった。
…黒子先輩もそうだったけど赤司先輩の私服、初めて見た…。
反射的にそんなことを思ってしまった。
けれど、なんて呑気なことを考えているんだとすぐに我に返る。
赤司先輩は何も気にしていないようで、昨日のようにパイプ椅子をベッドの近くまで引いてきてそれに腰を下ろした。
こんな風に来てくれるだけで嬉しい。
なんだかんだ思っていても、一人きりで病室で過ごしているのはやっぱり心細かった。
どこからか甘い香りが漂ってきて何の匂いかと思っていると赤司先輩が片手に持っていた箱をこちらに見せてくる。
「…手ぶらで来るのもなんだと思ったから、持ってきたぞ」
「え…」
「僕はあまりこういうものは買わないし食べないからね。純奈が気に入るか分からないが…ここに置いておくよ」
「…あ、あの…」
「…好きじゃないか?」
「いえ!…ありがとうございます…」
突然のことに一瞬なんと返事をすればいいのか分からなかった。
こんな気遣いにも泣きそうになるなんて、自分はどこまで弱くなってしまったのかと嫌でも思ってしまう。
赤司先輩は、優しい。
少なくとも私には今こうして優しくしてくれている。
思い返してみると赤司先輩には理不尽に冷たくされた記憶がない。
初めて出会ったときに抱いていた厳しくて怖そうな印象は今は少しも感じられなかった。
純奈が放心していることに気付いたのか赤司はやれやれと息を吐く。
そして、持っていたドーナツの箱をベッドの横にあるテーブルに置いた。
二人の間に沈黙が流れる。
先にその沈黙を破ったのは純奈だった。
「…赤司先輩」
「なんだ?」
「今日、黒子先輩が来てくれたんですけど…」
「…」
「…ええと…あの、それで…」
「…純奈。少し外に出ないか?」
「え?」
「そこに車椅子があるだろう。僕が押してあげるから」
赤司は話を遮って、病室に置いてある車椅子に目を向けながら呟く。
いきなり外に出ようと言われて純奈は動揺するけれど、赤司の様子を窺うと断ることもできなくて頷いた。
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