あああれは 哀れで非力な迷い子 脆弱な調和の駒ではないか 今ある命があってこそ 幸せだと誰かが言ったが お前は違うではないか馬鹿者め 「あ゛ー…アンタ相変わらず綺麗だな」 そんなことを言う暇があれば 立てるだろう阿呆 無様に倒れおって この局地で何故お前は笑えるのだ。 腹部の出血 これはもう止まらないだろう 触れた触手が赤く染まる。 ああこやつは人間だったか 「フン… お前は馬鹿だな 弱ければ死ぬ。当然ではないか」 逃げて逃げて 僅かな生を喜べばよかったのだ お前のような者が ここで倒れて何になろう 何かが変わるとでも言いたいのか ではなぜ 今の状況を避けることも出来なかったのか 「困ったなあー… せっかくの美人さんの顔がもう見えねーや」 「…儂を女のように扱うのは貴様位よの」 「そりゃ皆節穴だなぁー…」 弱わりきったこやつにとどめをさす気も毛頭ないが、こんなときでさえ笑顔を浮かべるこやつには心底腹がたつ。 伸ばしたやつの手を弾くと、不意に傷ついた顔をした。 この程度で笑顔を曇らせるとは分からぬ男だ。死ぬより、儂の拒絶のほうが辛いとでも? 冷たい手。 血で濡れた長い黒髪 死は人を無に連れ去る。 跡は残らない。不思議だ こやつも死ぬのだな。 冷たい手と自らの頬の温度差に意識は冷静になる。 「あー…これ夢かな死ねるわ」 「…阿呆、直にそうなる」 「あ゛ーじゃあヤダ。 ……ずっとこうしていたい」 永遠なんてない お前かてわかっておろう お前の物語はここで終わる。 これで何回目だ 儂は何回お前を殺したのだろう また何度でも 何度でも 目をあわせるとまたお前は笑う お前は前も笑っていたぞ 今のお前は知らぬだろうが 「また…膝枕してくれよな」 それも聞きあきたからな 「…大馬鹿者が」 誰がするか。 何度でも何度でも お前を貫くのは儂だ なら次はお前が儂を貫くのだろう その時は 叶わぬならいっそ共に果てようか |