「さぁ男子はお外に出た出た!今日はキッチン出入り禁止だからね!」

にやにやとした笑顔でそう言ってモミザ先輩は高らかに宣言した。

そう、今日は2月14日
バレンタインディである。

ズイズイとモミザ先輩に肩を押され、自らの背の後ろで勢いよくドアが閉まる音を聞きながら、そういえば派閥にいた頃は毎年トリスは僕とラウル師範に贈っていたことを思い出す。

「イベント事にかこつけるのは好きなんだよね、甘いのは苦手なくせに」

そう言ってくすくす笑ったのは彼女のパートナーであり、尊敬するギブソン先輩。
フォルテはシャムロックさんをけしかけて偵察しようとしてるし、
それを見掛けたケイナには吹っ飛ばされた。
レナードはあからさまに喜びリューグは興味なさげでいても少しそわそわしている。
兄のロッカは相変わらずだ。
カザミネさんとシオンさんは何やら話が盛り上がっているようだし
僕は二階のテラスに上がることにした。

こうした場面になるとつくづく自分の社交力の無さには感服するが変える気もない。
大概こういうときはギブソン先輩が話しかけてくるものだが今日はテラスへとは追ってこなかった。

こう旅団に追われる毎日を過ごしているとこんなちょっとした余暇が驚くほど懐かしく思える。
厄介な旅になった。
まさかあの森に関わることになるとは。
もはや僕たちの秘密も
明らかになるまで1日も猶予はないだろう。
いつまでも隠し通せる訳ではないのは頭ではわかっているものの
こう現実として思いを巡らすだけでゾッとする。

アメルとアグラバインの秘密も明らかになって、旅の仲間も一段落と落ち着いた矢先、モミザ先輩がカレンダーを見て計画を押し出したのだった。

あの人の自由加減はもう天晴れとしか言いようがない。

今日は雲もない快晴で、正午の暖かな光が無機質な僕の体を温める。
一人になると決まって頭に浮かぶのは過去の記憶たち。
過去の過ちの悔恨。
呪い。悲劇。
すべての感情が僕を渦巻いて理性が効かなくなる。
でもいつの間にか僕を支配していたのは生きることへの絶望感だけだった。
派閥に、組織に従属する日々。
罵られ、罰を受けた。

そんなとき
トリス
君が現れた。

無垢な笑顔に、戸惑った
融機人の僕だからこそ
一族が抱えたその罪を抱き過ごした幾年。
そんなものを弾き飛ばすかのように
君が現れた
いつもいつも笑ってて
僕を怒らせた
僕を困らせた

それすらも楽しげな
不思議な不思議な女の子。次第に目を離せなくなって
いつの間にか傍にいたその子を
僕は手放せなくなっていた。

君を見るたび苦しかった。
何も知らないまま
その無邪気に笑う君の笑顔が憎くて
それでいてどうしようもなく愛しかった。

だからもう少し待ってくれ
君を傷つける前に
君を見守り続けられるよう

「ネスーっ!」

お菓子作りが終わったのか
顔中チョコレートを飛ばして
無邪気に君が笑う。
遠くから聞こえる君の声
はしゃいだ声色、君の笑顔
もっともっと
与えてくれ。笑ってくれ。
日だまりのような
僕の闇を吹き飛ばす
傍に君がいれば
運命さえも越える気がして
泣きたいくらい幸せな気持ちになる

だから僕に少しだけ、
ほんの少しの勇気を与えてくれ。

どんなに光のない道だとしても
君を守り抜く。
君と共に歩くから

それは僕のエゴだとか
ワガママと言われてもいい
だから、
もう少しだけ
無邪気なままの君でいてくれよ

 
愛しさは君を傷つけた
(愛しい君のその笑顔と)(冷えきった心が反比例していく)(君の傍に在り続けるために僕は罪を冒す)

罪科を隠すことは罪なのか
君の笑顔を守るのは罪なのか。

―――――――――――
バレンタインなのに甘くもなく
いつも意味不ですいません←
時間軸はまだ13話くらい?
ライルとクレスメントの秘密が明かされる前。ギブソン邸にてお菓子作り。
全てが解決する以前の一人で罪を抱えて殺伐とした寂しくて脆くて儚くて厳しくて切なくて弱くて甘いネスティさんがだいすき。←


Happy Valentine!
長文ですがフリーです。
よい1日を!

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