「まさか君が木に引っ掛かって見つかるとは思わなかったな」
「申し訳ありません。木の枝に深く当たって電源が落ちました」

「君にもメンテナンスは必要だ。なぁハムザ。そろそろサイバーライフ社のメンテナンスを受けてみないか」
「わかりました。しかし構わないのですかヨハン?旧式の私がメンテナンスにいけば1週間はこの家を空けることになります。炊事は出来ますか?」
「いざとなったらトーストをスープにぶちこんで1週間を過ごすさ」

庭木の手入れ中にシャットダウンしてしまった私をヨハンが見つけてくれるまで随分時間が経ってしまったようだ。仕事を開始した時にはうららかな午後であったのに今ではすっかり夕陽が差し込んでいる。これ以上の続行は無理だろう。庭木の剪定は明日の予定に移行する。
男性とはいえ木にぶら下がった私を引きおろすのは簡単ではなかっただろうに
なにもなかったかのように私の頭や肩についた葉をはたいて落とすヨハン。
その手にはキャンバスを作るときに釘でついてしまった小さい切り傷や手のささくれがある。

「人間は、優れた回復機能がありますね」
「そうだな。小さな傷は何日かたてば治る。私のような若者ならな。年寄りはまた別だ。回復機能は劣化していく。それに大きな傷は残るし、痣も残る。そう言うと幼少期は無敵だな」
「この間の映像のようですね」

「あれはゾンビだ。ファンタジーだが、まぁ似たようなものかもな。科学でも人間や地球についてわからないことはまだまだ多い。謂わばこの世界も私にとってはまだまだファンタジーの世界だ。人間は奇跡的生き物だからね」
「あなたは以前に完全は、アンドロイドは人の夢だと言いました、ヨハン」

「しかし今私は違う可能性を考えました。人はアンドロイドより完璧な存在です。思考し、柔軟で、豊かな生き物です」
「お前にしてはやけに人間的な考え方だなハムザ。豊かと言うか」

「あなたは絵画を自然への模倣と言いました。私も思います。私は自然…、人間の、模倣だ。」

目は口ほどに物を言う
彼は全く笑っていなかったが私にはどこか喜んですらいるように感じられた。

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