「最近アンドロイドが暴走する事件が多発しているそうです。外出には私をお連れください」

アンドロイドが普及した昨今、あちこちで職を奪われた人間のストライキから人間により粗雑に扱われたアンドロイドのテロ事件が絶えず世間を賑わせている。
こちらに非はなくとも巻き込まれることも少なくない。
現にアンドロイドだけで街を歩けば少なからず嫌悪を表す人間もいる。
人間にとってアンドロイドは便利なだけではない。便利過ぎたのかもしれない。

「まぁ心配はいらないよ。確かにお前はあの家にいた頃からいた防犯型のアンドロイドだが私の身を守る必要はない。もとより家からあまり出ないしな」

御家騒動もなくルーカス家から交流を断った彼にとって親族の来訪はほとんどない上、相続人でなくなった彼には以前からのご機嫌伺いももはや今はなきに等しい。久しく本来のアンドロイドとしての機能を活躍させる場面も無ければ、炊事洗濯買い出しなど様々な雑事をこなしていくうちにハムザは家庭用に偏った技術的を成長させていくに任せている。

「お前は最高の救急隊員で家庭教師で庭師で、シェフだ。それで十分だろう」
「お言葉ですがあなたお一人で住むにはこの屋敷は広すぎるのでは?
現状メンテナンスは問題なく行えていますが家屋縮小は建設的と考えます。」
「まあそう言うな。縁を切るにしても粗末な屋敷を与えては当主としての父の顔に泥を塗るというもの。せめて父のエゴに付き合っているようなものだ。」
「そうですか。」

人間が物事を行う場合に伴う感情の振れはまだまだ理解できないことが多い。
建前、本心、笑っているのに落ち込んでいたり、泣いているのに悔しがっていたりする
人間はその意識の差を理解し合い、『空気を読む』という言葉で表され、対応しているとのことだが人間は高性能だと言わざるを得ない。明らかに自分にはリソースが足りない。
ヨハンとこの家で過ごして数年、力になれているのか甚だ疑問ではある。

「私もヨハンと意識を同期できたらいいんですかね」
「…何を言いだすんだ気持ち悪い」

空気を読むのはなかなか難しいらしい。


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